「核のごみ」の場所と危険性、1万年後の未来の子孫にどうやって伝えたらいいのか
ストーンヘンジ方式? 聖職者方式? 色が変わるネコ? それとも……
およそ50年間にわたり、人間は核廃棄物を地下深くに埋め続けてきた。放射線を放つその遺産は、今後数千年から数万年にわたって危険な状態を保ち続ける。現在、世界中で20カ所以上の核廃棄物貯蔵施設が計画または建設されているが、たとえば今から500世代先のわたしたちの子孫は、そういった施設がある場所やそこを避けるべき理由について、どうやって認識すればよいのだろうか。 ギャラリー:核の亡霊――世界の核実験の4分の1が行われた土地は今 写真24点 この問題に対してはこれまでに、「核の聖職者」や恐ろしげなモニュメントから光るネコまで、さまざまな提案がなされているが、未来の人類に危険を知らせるというのはどうやら、想像よりも難しい作業のようだ。 たとえば日本の東北地方では、人々は何世紀にもわたって、海岸沿いに巨大な石碑を建てて、未来の世代に津波の脅威を伝え続けてきた。津波が到達した高さや、特定の地点より下に家を建ててはいけないなどと書かれているにもかかわらず、その警告を無視したり、忘れてしまったりして、被害を受けたところがある。 また、米国政府は1950年代に世界共通の放射線警告マーク(黄色い背景に黒い刃が3枚あしらわれている)を標準化したが、調査によると、そのマークを認識しているのは世界人口のわずか6%程度だという。
時間の深淵を越えて
1980年代初頭、各国政府と原子力産業が放射性廃棄物の長期的な保管についいての懸念を深める中、新たな研究分野が誕生した。核記号学だ。 これはとても幅広く難解で、ときに超現実的な研究であり、未来の人類と文明(さらには人類の後に登場する種)に対して、われわれが残す危険な遺産についての警告を伝える方法を探ることを目的としている。 核記号学を立ち上げたのは、技術者、科学者、政治学者、心理学者、人類学者、考古学者などから構成される「ヒューマン・インターフェアランス・タスクフォース(HITF、人類干渉特別調査団)」のメンバーだ。1981年に米エネルギー省と米ベクテル社によって結成されたこの調査団は、現代まで残った古代文明の巨大建造物、聖典、呪いなどにヒントを得て、「地質学的スケールの時間の深淵を越えて意思疎通を図る」ための、われわれの社会における「最大の意識的な試み」の考案に取り組んだ。 HITFに提案されたなかでとくに強い批判を浴びた計画は、人々の意識を操作する自己永続的な「核の聖職者」だった。この集団に属するのは選ばれたエリートたちで、彼らは神話、伝説、秘密の儀式などを用いて、何世紀にもわたってそうした場所をタブー視する感覚を人々に布教することを目指す。 1984年に活動を終えたHITFの結論は、遠い未来まで確実に警告を届けるには、核廃棄物処理場の周囲にある、危険と恐怖の感覚を呼び起こす巨大なモニュメントに頼らざるを得ないというものだった。その建造物は1万年間メンテナンスが必要ないほどの耐久性を持ち、また人々が不安を掻き立てられて、それらについての知識を数えきれないほど先の世代まで伝えなければならないという気持ちになるようなものでなければならない。 彼らが提案した「進入禁止」を示すサインとしては、巨大な岩のような棘を地面から四方八方に突き出させるというものや、原子力の「ストーンヘンジ」などがある。 この「ストーンヘンジ」は、境界を示す巨大な花崗岩の柱、施設が実際にあった場所を囲む塁壁、敷地の中央に位置する構造物から構成される。中央の構造物には、その施設に関する情報が保管されている。ここに収められる情報のコピーは、処理場の敷地周辺にも埋められ、さらには長期保存が可能な特製の紙に印刷されて世界中のアーカイブに保存される。 しかし、こうした創造物にどれほど恐ろしげなメッセージを刻み込んだとしても(たとえば『ここは名誉ある場所ではない。尊敬を集める死者はここに葬られていない。価値あるものは何もない。ここにあるのはわれわれにとって危険であり、われわれに嫌悪感を抱かせたものだ』など)、大規模なモニュメントは、好奇心にかられた人々、犯罪者、さらには未来の考古学者からの注目を集めやすく、本来であればそれが防ぐべき行為、すなわちその場所の発掘を、かえって促す結果になる可能性が高い。 エジプトのピラミッドがまさにその一例だ。ピラミッドは今も存在するが、神官たちはとっくの昔に消え去り、われわれは恐ろしい呪いをものともせずに、彼らの埋葬室を略奪し、死者を汚している。