Yahoo!ニュース

IDでもっと便利に新規取得

ログイン

米津玄師、『フォートナイト』イベントを開催した意義とは バーチャルを介して取り戻した“失われた体験”

配信

  • この記事についてツイート
  • この記事についてシェア
リアルサウンド

●わずか3カ月で実現した「『フォートナイト』への日本人アーティスト初出演」  まさか、ここまでの速さで物事が動いていくとは。以前、ゲーム『フォートナイト』と人気ラッパーのトラヴィス・スコットが全面的にコラボレーションを果たした「Astronomical」について執筆した際、通常のゲームとは異なる、フレンド同士でアクティビティを楽しむことを目的として新たに実装された「パーティーロイヤル」というモードについて、 “フィールドにはDJブースが用意されているのだが、おそらく今後はこのDJブースを活用して、様々な著名DJが『フォートナイト』上でDJプレイを行い、パーティを盛り上げるであろう。“  と書いたのだが、あれから3カ月が経過し、もはやDJという枠には収まらないほど多くのクリエイターがこの「パーティーロイヤル」というプラットフォームを活用してコンテンツを提供するようになっている。  デッドマウスやスティーブ・アオキといった著名DJによるパフォーマンスを皮切りに、映画監督のクリストファー・ノーランは自身の映画である『インセプション』や『バットマン・ビギンズ』といった作品の上映会を開催し、Black Lives Matterなどに代表される人種差別反対運動が広がっていった際にはRun The Jewelsのメンバーであり活動家でもあるキラー・マイクやリル・ベイビーなどが参加する「We The People」という対談番組が放送された。  そしてついに日本人アーティストとして初となる『フォートナイト』への参加を実現したのが、今や日本を最も代表する存在といっても過言ではない米津玄師である。8月7日、全世界同時でパーティーロイヤル限定の映像として、ライブパフォーマンスの映像がメインステージでプレミア公開されたのだ。  前述の「Astronomical」の際には、国内では『フォートナイト』のファンを中心に話題が巻き起こり、トラヴィス・スコットのファンが新たにゲームに参加するという光景が多く見られた。とはいえ、あくまでトラヴィスはアメリカのラッパーであり、国内におけるインパクトはそれほど大きかったわけではなかったりする。一方で、「米津玄師がゲームでライブパフォーマンスを披露」という見出しのインパクトは相当なものであった。SNSだけではなくマスメディアでも話題を巻き起こし、逆にこれをきっかけに「Astronomical」の映像が引き合いに出されるというケースも少なくなかったほどである。  とはいえ、この様子を見ながら、筆者としては「ハードルが上がりすぎてはいないか」と感じたのも正直なところではある。「Astronomical」はあくまで、トラヴィス・スコットと『フォートナイト』が全面的にコラボレーションした一大コンテンツであり、莫大な予算と工数を投じて専用のゲームモードを作るレベルの大作だったからこそ強烈な“体験“として世界的なインパクトを残した。一方で米津玄師が参加する「パーティーロイヤル」はあくまで共通のプラットフォームを用いたパーティ会場であり、巨大化した米津玄師がゲームフィールド上に降臨するとか、そういうことは起こらない。あくまで、プレイヤーが派手な装飾で彩られたパーティ会場に集まり、フィールド上のスクリーンに映るコンテンツを楽しむ、それが「パーティーロイヤル」である。 ●バーチャル空間を介して、失われた「みんなで盛り上がる体験」を取り戻す  「パーティーロイヤル」が提供する体験について、人によっては「スクリーンの中に映るスクリーンを見るくらいなら、最初からライブ映像を見た方が良いのではないか」と感じることもあるだろう。ここで重要なのは、このモードが「フレンド同士でアクティビティを楽しむ事を目的として」制作されたモードであるということだ。そして、ライブの醍醐味といえば、たくさんの人々が集まり、一つの体験を共有することにある。これらはコロナ渦において失われてしまった光景であり、米津玄師が「パーティーロイヤル」に参加する意義もここにある。  今のライブシーンでは、無観客でのライブを行い、その模様を配信し、SNSや配信サービスのコメント欄を活用することで観客同士での一体感を作り出すというのが一つの主流となっている。もちろんそれ自体も楽しいのだが、あくまで実際に人々が集まった時の楽しさとは異なる体験であるというのも正直なところではある。  「パーティーロイヤル」では、友達同士がボイスチャットをしながら一つのグループとして参加したり、これまでゲームをプレイしながら集めてきたお気に入りの衣装やエモート(ポーズやダンスなどで感情を表せるコミュニケーションツール)を選んで着飾ったり、あるいは逆にまったくゲームを経験したことのない人が少し緊張しながら手探りで初めてフィールドにやってきたりと、様々な人々が「米津玄師のライブを見る」という一つの目的のために開演時間の1時間くらい前から一つのパーティ会場に集まっていく。操作するのはあくまでバーチャル空間上のキャラクターだが、今では夢物語のようにも感じられる、大規模な音楽フェスティバルや有名ミュージシャンのライブで見るのと同じ光景がそこには広がっていたのだ。  米津はパフォーマンス中のMCで、今回の試みは、本来開催されるはずだった『米津玄師 2020 TOUR / HYPE』が中断を余儀なくされ、秋以降に延期していた公演もすべて中止となってしまい、その中で出来る事を模索した結果としてたどり着いた一つの答えであると語っていた。スクリーンの向こう側に映る米津玄師は、集まったプレイヤーと同じように、巨大な機械仕掛けの歯車が背後に存在するライブステージ上や、砂漠と都会を行き来したりと、バーチャル空間上のライブステージでパフォーマンスを披露していた。プレイヤーと同様に、スクリーンの向こう側にいる米津玄師もまた、デジタルの技術を使うことでバーチャルの実体へと姿を変えてファンとコミュニケーションを図ろうとしているのである。これが実在するリアルな会場で撮影されたライブ映像だったら、受け取る印象は大きく異なっていただろう。積極的にデジタルを活用したクリエイティブの可能性を取り入れ続けてきた米津玄師だからこそ、今回の体験はよりリアリティを持って受け入れられたのではないだろうか。  プレイヤーも、楽曲に併せてエモートを披露したり、ゲームフィールド上に用意されたグラップリングフックやペイント弾、ジャンプパッドなどを使ってはしゃいだりしながら、縦横無尽にパフォーマンスを楽しんでいく。筆者は一人で本イベントに参加したのだが、同じく一人で参加していた他の人と一緒に飛び跳ねたりしながら、「砂の惑星」などのアップリフティングな楽曲を楽しんでいた。一方で、バーチャル空間自体も満点の星空へと変わっていく中で最後に披露された「Lemon」では、多くのプレイヤーが静かに座ってパフォーマンスに浸っているように見受けられ、そんな景色もまた久しぶりに目にするもので、ただ楽曲を聞く以上に感慨深くなる瞬間がそこにはあった。  「パーティーロイヤル」の活用はあくまで『フォートナイト』側の協力があってこそのものであり、どのアーティストに対しても平等に開かれた手段というわけではない。だからこそ、これが新たなスタンダードと言うわけにはいかないし、この状況下で引き続きできることを模索していくアーティストや音楽関係者一人ひとりを、ファンはしっかりとサポートしていく必要がある。その上で今回の成功を踏まえて、「パーティーロイヤル」の存在自体はより大きなものとなっていくことだろう。参加するアーティストも日本人アーティストを含めて、さらに増えていくはずだ。今回のパフォーマンスでその形を少し取り戻した「みんなで盛り上がる体験」は、むしろアーティスト側こそ求めているものなのだから。今後は「パーティーロイヤル」の影響を受けて、いかにあの「ライブ空間」を再現出来るか、その方向を模索するアーティストがより増えていくかもしれない。  米津玄師は今回のパフォーマンス中のMCでこのように語っている。 「未曾有な出来事を前に私のような音楽家にできることはそう多くはありません。変わっていく時代の中でより新しく、それでいて美しい一瞬をみんなと過ごしていたい。そういう思いを抱きながら今ここに立っています。」  「パーティーロイヤル」とのコラボレーションによって実現した、たくさんのファンと米津玄師本人がバーチャルを介して繋がったこの光景は、まさに「新しく、それでいて美しい一瞬」だったように思っている。

ノイ村

【関連記事】