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阪神・藤浪晋太郎の復活は本物なのか/川口和久WEBコラム

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構えの足の位置をオープンにしてみたら

 先日、週べの増刊号で、1984年の日本シリーズについての取材を受けた。  広島時代で相手は阪急だった。俺はプロ4年目で、第3戦で完投勝利。これはいい思い出だけど、もう一つ、忘れられないことがある。  第6戦だ。  先頭打者の福本豊さんの頭にまともに当てた。ヘルメットが粉々に砕け散って、その後、福本さんはピクリとも動かなかった。  俺は、「ああ、殺人者になったんだ。もう野球人生は終わった」と思った。  試合は、そのまま続投だったが、まったく覚えていない。  気がついたらベンチに座っていた。 70年代の面影を残す“赤き対決”は広島が雪辱(1984年10月22日、広島×阪急)  助かったのは、福本さんが次の第7戦でスタメン出場してくれたこと。後で聞いたら、ヘルメットが粉々になったことで衝撃が散ったらしい。  ただ、福本さんが第7戦に出てこなかったら、俺はしばらく引きずったかもしれない……。  こんな書き出しにしたのは、ご想像のとおり、阪神の藤浪晋太郎のピッチングを見たからだ。  グラウンドでは抜け球、イップス、それ以外でも合コンコロナ、遅刻とたたかれまくっていた男が、8月21日のヤクルト戦(神宮)で、やっと勝った。  彼も、俺が福本さんに当てた後みたいな心理状態で投げていた時期があったんじゃないかと思ってね。  でもまあ、マスコミも現金なものだ。  ネットやスポーツ新聞は、掌返しで称賛と感動の逸話の嵐。  ただ、こういう話って、ついつい読んじゃう。  俺は、「自分のレベルでイップスは失礼」という話が印象に残った。  ユーチューブで、草野球の選手が、マウンドで金縛りのようになっている映像を見たとき思ったらしい。  それで「俺程度が」と開き直り、今回の勝利にもつながった、と。  いい話じゃないですか。  投手の一番の薬は勝ち星。いくらいいピッチングをしていても、勝てないと、本人も野手陣もあせって空回りになってくる。今回の勝利をいいきっかけにしてほしいと思う。藤浪の復活なしには阪神の優勝もないしね。  ただ、技術面で見ると、完全に復活したわけではない。  ヤクルトは左中心で来たけど、右打者が増え、また、頭部近くに1球でも行ったら、ずるずる行くこともあるかもしれない。  技術面で感じるのは、左足を上げたとき、それが外野方向に入り過ぎること。背中を打者に向けるようにし、ねじれを使う意識だろうが、ここで腕が背中側まで出ている。  彼がそこから打者に向かって体重移動していき、トップをつくってリリースにもっていく間があるならいいが、見ていると打者方向への体重移動が十分ではなく、一塁側に向かいながらリリースに持っていく。しかも前回の広島戦がそうだったが、悪いときは体が横回転になるから、どうしてもリリースの位置が頭から遠くなり、タイミングが早くなる。  ある意味、抜け球は当たり前のフォームだ。  よく頭が地球、腕は月の軌道という言い方をする。頭に対し、同じ軌道を通って同じ場所から離せば、制球は安定するが、彼はその距離が遠いし、安定していない。リリースがバラバラで、しかも真っすぐとスライダーで違っているのも気になる。  1つアドバイスするとしたら、細いことではあるけど、構えているとき打者と正対するくらいに開いてみたらどうだろう。  今はマウンドから打者に対し、両足をスクエアに構えているが、それを打者のオープンスタンスのように思い切って開き、つま先も一塁側に向け、そこから足を上げていく。  そうすると、人間の体の仕組みとして、あそこまで足が外野方向に入っていかない。巨人・菅野智之のひねる初動じゃないけど、ちょっとしたアクセントでいろいろ変わってくる。  だったら初めから足が入らないように意識をすれば、と思うかもしれないが、ピッチングはなかなかそうはいかない。藤浪にしても、この感覚で、いいピッチングができた時期があった、という成功体験があると思う。  変えるのは怖いと思うけど、試合じゃなく、練習で試してもいいかもしれない。  1試合、せいぜい120球。今年はもう半分終わりそうだから、先発登板は10試合もないはずだ。そのすべてに意味のあるボールを丁寧に投げていけば、必ずまた、勝利の女神が笑顔を見せてくれると思うよ。 写真=BBM

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