要介護認定を受けた夫94歳、妻92歳の老夫婦。金銭管理を代行する長女夫婦による「経済的虐待」の実態とは。対処法を介護のプロが解説
◆定期預金や保険を解約すればお金はあるはず、ところが…… 困ったケアマネジャーは、Yさん夫妻に確認しました。「長女さんが、病院にいくお金も追加の介護サービスのお金もないっていっているんだけど、実際はどうかしら?」と聞くと、夫は 「いや、1年前に俺の預金200万円を解約して長女に渡したから、お金はあるはずだよ。」と答えました。そして「お金のことは、長女に任せてるから。」とも言ったのです。 この時ケアマネジャーは、両親にはお金があるにも拘らず通院させない、介護サービスを利用させない長女の行為は、高齢者虐待の一つである「金銭的虐待」に該当するかもしれないと感じました。 これはチームで話し合いにあたった方がいいと考えたケアマネジャーは、地域包括支援センターへ連絡。Yさん夫婦と長女次女を交え話し合いの場を持つことにしました。 ところが、話し合いに出席予定だった長女は直前で「用事がある」と言って欠席。仕方なく、当日はキーパーソンの長女抜きで話し合いが始まりました。
◆競馬好きな長女の夫による「経済的虐待」と判明 話し合いの場に出席した次女によると、両親は持ち家であり年金も月20万円近く受け取っているため生活には困らないはず。またある程度貯えもあり、病院にも行けないということはないはずだと言いました。 そこで次女から長女へ連絡を取ってもらい、Y夫妻の200万円の預金はどうなっているのか問いただしました。 しかし、「忙しいから、まだ銀行へ行っていない。」というばかり。 そして何度か長女とやりとりをするうち、なにかやましいことがあるかのようにラインが一切既読にならなくなったというのです。 その後は区が介入。長女のことを調べたところ、長女の夫による預金の使い込みが判明。自分の生活費やギャンブルなどに使っていたことがわかりました。
◆援助のポイント・対処方法 「経済的虐待」は珍しいことではない 高齢者虐待の中でも、1位の身体的虐待に次いで多いのは「経済的虐待」です。お金のことは、介護事業者も把握することは難しく、公共料金や介護サービス利用料が滞ってはじめて「お金がない」ことが分かったりします。 今回はキーパーソンとなった長女が親の金銭管理を代行していましたが、そもそも「夫がギャンブル好き」なのに、なぜ金銭管理を任せたのか?という適正も気になるところです。とはいえ、「親のことは長男・長女がやるもの」というY夫妻の考え方もあったのかもしれません。 兄弟の一人が親の金銭管理をするのであれば、毎月通帳の記帳頁を全員で共有する、親に見せるというルールを最初に作っておくべきでしょう。 「日常生活自立支援事業」 子が親の金銭管理を行うことが一般的ではありますが、子どもがいない世帯もありますし、遠く離れた場所に住む子どもに金銭管理を任せるのは現実問題難しいでしょう。 そんな時は、社会福祉協議会が行う『日常生活自立支援事業』を利用し、お金の入出金や保管までお願いすることができます。相談は無料です。
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