秋田のスーパーに居座ったクマは“生粋の都会育ち”か…専門家が明かすアーバンベアの進化 「山から下りてきた」のではなく「そもそも街で暮らしている」可能性
集落依存型クマ
2010年代では人を恐れないどころか、「人間は食べ物」と学んでしまった「新世代クマ」の出現が注目された。2020年代に入ると、北海道を中心に人間の生活圏に出没する「アーバンベア」が脚光を浴びた。米田氏は、さらに新しいタイプのクマが出現する可能性が高まってきたと指摘する。 「アーバンベアは都市部に近接する森林地帯から住宅地などに移動してきたクマを指します。それが秋田市のケースでは『都市部で育って成長した』という、いわば“生粋の都会育ちであるクマ”の存在が明らかになりました。実は20世紀末から、山間部の集落では人間と共存する『集落依存型クマ』の存在が明らかになっています。クマが集落から都市部に移動するのは必然だと考えられ、例えば青森県では十和田市と三戸郡、津軽平野への生息の広がりが顕著で、弘前市内に出没したり、八戸港で駆除されたりしています。アーバンベアの次は『アップルベア』でしょう。90年代は絶滅の恐れがある広島、島根、山口県の山間地ではクマと住民の共存が図られましたが、現在では人口そのものが消滅して被害の訴えが減り、かえって海岸部での出没騒ぎが目立ちます。今後はクマと都市部の住民を巡って、様々な軋轢が表面化すると考えられます」(同・米田氏)
発砲に萎縮する現場
テレビ局はクマの居座るスーパーにSITが駆け付け、ワナの設置を行う様子を視聴者に伝えた。「なぜ発砲しないのか」と疑問に感じた方もいただろうが、それは専門家も同じだ。 「札幌高裁は10月、ヒグマの駆除で建物に向かって発砲したため猟友会の支部長が猟銃所持許可を取り消された問題で、取り消しは適法とする判決を下しました。秋田市のスーパーでSITが対応する様子を私もテレビで見ましたが、判決の影響で現場が萎縮しているのは明らかだと思います。スーパーにクマが居座っているという事態で警察が出動したのですから、この状況で適用されるべき法律は警察官職務執行法でしょう。そして実際に警察官がクマに向かって発砲した事案はあるのです。SITなど県警の警察官がクマに向かって発砲すべき状況だったにもかかわらず、それは行われませんでした」(同・米田氏) 米田氏によると日本でクマが何頭棲息しているのかは1万頭説から10万頭説まであり、正確な数字は得られていないという。一方で生息地が拡大しているのは確実だとされており、ここ15年で最大で3倍、平均して1・4倍ほど広がっている。 「生息地が拡大しているわけですから、人とクマが接近する機会は確実に増えている。にもかかわらず、私たちはクマが何頭いるのか正確な数字を把握できないまま、クマ問題と対処する必要に迫られています。クマの駆除で猟銃の使用が制限されてきたのは2000年代から始まっています。現場からは『警察に銃の使用許可を求めると、最低でも1時間、ひどい時は2時間半かかった』という悲鳴が上がるようになりました。もちろんクマは動いていますから、1時間も経てば見失ってしまうことも珍しくありません。今、クマの駆除に関する新しい法律やルール作りが話し合われており、来年以降に発表される見通しです。ただ、山間部が豊作の今年に発表されていれば、対応が楽だったと思わざるを得ません。不作と新法律や新ルールの実施が重なってしまうと現場が混乱するのは明らかです。いずれにしても、今後も人とクマのトラブルは続くのは間違いないでしょう」(同・米田氏) デイリー新潮編集部
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