秋田のスーパーに居座ったクマは“生粋の都会育ち”か…専門家が明かすアーバンベアの進化 「山から下りてきた」のではなく「そもそも街で暮らしている」可能性
12月2日、秋田市内のスーパーに侵入したクマは捕獲された。市役所や県庁には相変わらずクマ駆除に反対する抗議電話が相次いだという。抗議の内容を報じた読売新聞の記事によると「山に食べ物がなく、仕方がなく下りてきている」という電話があったそうだ(註)。腹を減らしてやむを得ず街までたどりついた熊を処分するのは可哀想というわけだ。ところが「山に食べ物がない」という認識は事実誤認だとご存知だろうか。 【閲覧注意】「ロースの部分だけ食べられた」 北海道を恐怖に陥れた巨大グマ「OSO18」に襲われ、アバラがあらわになった乳牛 ***
秋田県警のSIT(特殊事件捜査係)も出動した“大事件”を振り返っておこう。11月30日の早朝、秋田市土崎港西のスーパーで男性従業員がクマに襲われた。男性は頭を噛まれ、さらに顔などをひっかかれるケガを負い、血を流してうずくまって「痛い」と叫んだ。 開店準備を行っていた店員は避難。クマは店内に居座り続け、市は店舗内にクマの好物であるはちみつや米ぬかを入れた箱わなを設置した。そして発生から3日目の12月2日、午前4時ごろにわなのセンサーが反応。午前8時過ぎに警察が店舗内に入り、クマが捕獲されているのを確認した。 スーパーは秋田港の近くにあり、周囲には大きな貨物駅や物流倉庫、ホテルや観光施設が林立する完全な市街地だ。市内の森林地帯から数キロは離れており、これほどの都市部をクマが自由に歩きまわった衝撃は大きかった。 民放キー局は現場周辺の地図を紹介し、どれほど森林地帯が遠いのか視聴者に訴えた。Xでも「これほどの距離を森から歩いて来たのか」と驚きの声が投稿されたが、タイトルで触れた通り“専門家”は異なる見解を持っている。 作家で、日本ツキノワグマ研究所の理事長を務める米田一彦氏は、秋田大学の教育学部を卒業し、秋田県庁に入庁すると生活環境部自然保護課に勤務した。86年に退職して以降はクマの研究家として全国各地を調査し、その知見を積み重ねた。
都会育ちのクマ
米田氏は全国のクマの動向について最新の情報を得ている。さらに秋田県はなじみの深い場所だ。土地勘が豊富な米田氏に今回の“大事件”について見解を訊いた。 「テレビなどの報道を見て、『山にエサがなく、冬眠前の腹ごしらえのため市街地のスーパーに現れた』と受け止めた方は少なくないでしょう。ところが今年は全国の山間部でドングリなどクマの食料は豊作なのです。東北や北海道も例外ではなく、今年の9月以降、クマが出没したという通報は全国的にぴたっと止まっていました。そうした中、今回のスーパー立てこもりが起きたわけですが、問題のクマは体長が1・1メートル、体重が69キロあったそうです。1メートルの熊なら体重は40キロ前後が一般的です。およそ倍の体重ですから、それほど猛烈に太ったクマだったのです」 山間部は確かに豊作だ。とはいえ通常の倍以上に太るのは尋常ではない。はち切れそうなクマの体から「森に住んでいたクマが数キロ歩いてスーパーに来た」という可能性は低いことが導き出される。「もともと都市部で生活していたクマ」だと判断すべきだという。