四角いクロワッサンの秘密、美味クリームとサクサク食感を両立 東京マリオットホテル
連載《hotel TIPS》Vol.17
編集長がホテルのおいしいものや楽しみを探しに行く「hotel TIPS」。折々にトレンドが生まれるパンの中で、最近とみにクローズアップされているクロワッサンが今回のお題です。見た目も美しく、おしゃれな一品があると聞いて、東京マリオットホテル(東京・品川)に向かいました。2023年8月に開催された「2023パングランプリ東京」で最も優れたパンに選ばれた実力派とあって、がぜん期待が高まります。 【1分動画・写真はこちら】グランプリ受賞のクロワッサン・レザン、焼き上がりの「直方体」がキュート! ベーカリーシェフは何を語る?
■アールグレイ香るクリームがたっぷり
ホテル1階の「ペストリー&ベーカリー ジージーコー」を訪れると、お目当ての「クロワッサン・レザン」が並んでいました。一見するや、小さな疑問符が頭に浮かびます。クロワッサンといえば三日月形や紡錘形、円形が定番。ところが、この一品はサイコロを2つくっつけたような直方体です。サイズは手のひらに乗るくらい。きつね色に焼けた折り生地の肩口に、白い粉糖をまとった姿はパウンドケーキのよう。少々おすまし顔の、端正で美しいフォルムです。 ナイフで2つに切ると、中には香ばしそうなクリームがたっぷり。このビジュアルもクロワッサンらしからぬ意外性がたっぷりです。まず一口。芳醇(ほうじゅん)なバターの風味と共に、クロワッサンのサクサクした歯応えが楽しめます。さらに食べ進めれば、今度はアールグレイの紅茶の華やかな香りと豊かなキャラメルの風味が溶け合った、なめらかなクリームの味わいが口中に広がります。 不思議なのは、クリームがパンの中に隙間なく詰まっているのに、クロワッサン生地がいつまでもサクサクした歯応えを保っていることです。ここでベーカリーシェフの鈴木万寿夫さんが種明かし。「クロワッサン生地に直接クリームを詰めると、パリパリ感が消えてしまいます。そこで、まずブリオッシュ生地でクリームを包み、その外側をクロワッサン生地で包む、という2層構造にしました」
■2種類の生地、味わいも多層的に
2種類の生地を使うことは多層的な味わいにもつながりました。ブリオッシュ生地にはもともと甘みがあります。これにブランデーとグランマルニエの2種類の洋酒につけ込んだレーズンを混ぜてアクセントとし、より大人のテイストに仕上がりました。 クロワッサンとブリオッシュという、発酵条件も違う2種類の生地を使うのは簡単なことではありません。美しい層が重なる見栄えに焼き上がるよう、クロワッサン生地を巻きつけていく技術も熟練を要します。クリームは最初にブリオッシュ生地で包み、焼き上がってから再び注入することで、隙間なくみっちり詰まります。かように細部まで手間のかかるクロワッサンなのです。 このクロワッサン・レザンは若手ベーカー、荒木将也さんが考案しました。「うちのベーカリーでは8人働いていますが、皆がそれぞれアンテナを張っていて、パンのコンクール情報を集めているんです」。鈴木さんは「こういうパンを出品してみたい」と手を挙げる若手に「どんどんチャレンジしなさい」と発破をかけ、指導してきました。