【解説】ラピダスの盟友 最先端半導体の研究機関imecを紹介
近年、半導体はAI(人工知能)をはじめとする最先端技術において不可欠な戦略物資と位置付けられ、その重要性が増している。そうした流れを背景に、日本でも最先端半導体製造を実現するため、2022年にラピダスが設立されるなど、最先端半導体を巡る動きは加速している。ラピダスは27年から回路線幅2ナノメートルのチップ量産に向けて動きはじめているものの、1社だけの力では実現できるわけではない。多くの企業や研究機関と連携・協力しながら最先端半導体製造の実現に向けて歩みを進めている。そうしたパートナーの一つが、ベルギーにある半導体研究の国際機関であるimecだ。ラピダスのパートナーとして新聞やテレビでも目にするようになったimecだが、どのような研究機関なのか。今回はimecについて紹介する。 imecは、ベルギーのルーベンに拠点を置く、ナノエレクトロニクスとデジタル技術に関する世界最大規模の独立系研究・技術革新センターだ。1984年に設立され、半導体業界の関係者はimecを世界のチップ研究所と呼んでいる。実際にimecの研究成果は、チップの小型化、高速化、低価格化、持続可能性の実現に役立っている。imecとの協力関係や連携を通じて、世界各国の研究機関や企業、大学は半導体の技術開発においてブレークスルーを達成してきた。「私たちは、気候変動、公害、身近な医療、持続可能な食糧供給など、最も差し迫ったグローバルな課題に取り組んでいる。スマートフォンに搭載されているチップから、健康、自動車、農業、エネルギーなどを変革するイノベーションまで、imecは未来を形づくる」とimecは声明で述べている。 imecの三大資産 米国を拠点とする研究機関、戦略国際問題研究所(CSIS)はこのほど、ルク・ファンデンホーブ博士にインタビューを行った。このインタビューの目的は、世界の半導体産業の発展におけるimecの役割、特に共同研究を通じてのimecの役割について深く掘り下げること。CSISのウェブサイトとYouTubeチャンネルで公開されたインタビューの中で、ファンデンホーブ博士は「84年の設立当初は70人だった研究チームが、現在では5500人以上の研究者を擁し、既に50億ドルを超える投資が行われている」と述べた。 「imecは、半導体技術に関する世界最大の独立系研究開発組織に成長したと言える。私たちは、三つの主要な資産を基盤として、それを達成することができた」とファンデンホーブ博士は話す。 ファンデンホーブ博士によると、最初の資産は、この施設が世界最高クラスの最先端インフラを備えていること。具体的には、ルーベンを拠点とする施設には、300ミリメートル半導体パイロットライン、先進的なクリーンルーム、ラボなどがある。こうした最先端のインフラを使って、研究者やパートナー企業がアイデアを実現できるようにする。 ファンデンホーブ博士は、100カ国以上から集まった5500人の科学者とエンジニアなどの人材も資産だと述べた。さらに、imecの三つ目の貴重な資産は、そのオープン・イノベーション・モデルだ。中立的でオープンなイノベーション・モデルによって、エコシステムにおける全ての人々と肩を並べて仕事ができる。これらのパートナーには、200を超える大学、大手企業、さらにはスタートアップ企業も含まれる。 エコシステムを共通のロードマップに合わせる チップの小型化というロードマップは、業界にとって困難な課題となっている。そのため、imecを含む半導体関連企業および組織は、半導体のロードマップを拡大するため、広範な研究開発に取り組んでいる。しかし、こうした努力には複雑なプロセスと巨額の投資が伴う。そのため、プロセス技術の開発に取り組む企業はそれほど多くない。 「技術革新がもたらす価値を実現するためにimecが果たす役割は、共通のロードマップに向けてエコシステム全体を調整することだ。また、材料・装置サプライヤー、チップメーカー、そしてエンドユーザーなど、業界全体がこのロードマップを共有し、ロードマップに沿って開発を進めている」とファンデンホーブ博士は語る。 このことからもimecがオープン・イノベーションのコンセプトでこのエコシステムを実現していることが分かる。こうして、パートナーシップによる研究開発コストの削減が実現する。ファンデンホーブ博士は「研究開発には莫大な投資が必要だ」と言う。そのため、imecはこのエコシステム・イノベーション・モデルを可能にし、パートナーシップやコンソーシアムによって研究開発コストを削減している。 現在の最先端半導体の研究において最重要視されているのが「極端紫外線(EUV)リソグラフィー」だ。EUVは波長が13.5ナノメートルと非常に短く、従来のArF露光装置では限界となっていた回路線幅をより微細化することができる。その一方、EUV露光装置を供給できるメーカーはオランダのASMLだけであり、装置の価格も非常に高い。 「このプロセスには、最も高価な装置が必要で、1台の装置で5億ドルするとも言われる。ASMLとimecは非常に緊密なパートナーシップを結んでいる」とファンデンホーブ博士が語る通り、ASMLはEUV露光装置の開発に注力し、imecはプロセスとエコシステムを開発することでロードマップを推進している。 imecとラピダスのコラボレーション imecはベルギーに本拠を置きながら、全世界を相手に仕事をしており、米国、欧州、さらには台湾、韓国、日本のトップ企業と仕事をすることができる。ラピダスは22年12月にimecと協力覚書を締結。この協力覚書により、最先端半導体技術に関する長期的かつ持続可能な協力関係を構築することとなり、日本国内での最先端半導体製造実現へ向けた中核パートナーとなった。ラピダスはEUV露光装置の開発に関する技術支援をimecから受ける。今年の12月18日には北海道千歳市に建設中の製造拠点「IIM-1」にEUV露光装置が搬入される予定で、連携の成果が着実に形となりつつある。ラピダスは25年4月にパイロットラインの稼働開始を予定。最先端の2ナノメートルプロセス技術を用いたチップを27年から量産する計画だ。 imecが誇る最高峰の技術支援を受け、国内における最先端半導体製造の実現へ向けた動きが加速する。
電波新聞社