犬の血液バンク、他の犬の命を救う「静かなヒーローたち」の世界 英国では全国規模のしくみ
イヌ用血液バンクの設立
20年前、英国では「2005年動物用医薬品規則」が制定された。これにより、イヌの血液を計画的に採血し、処理し、保存する、人間の血液バンクによく似た信頼性の高い全国規模の供給システムをつくれるようになった。 血液バンクの需要が高まっている理由は獣医学の進歩にある。「動物病院の治療はより高度になっています」と、獣医外科医で「英国ペット血液バンク」の臨床スーパーバイザーでもあるララ・ハウ氏は説明する。同バンクは2007年に設立された非営利団体で、1万4000匹の供血犬(ドナー)が登録していて、年間3000単位以上の血液を集めている。 「今のペットには、かつてないほど多くの治療の選択肢があります。20年前にはできなかった処置や治療ができるようになっているのです」と氏は言う。「それと同時に、イヌが輸血を必要とするケースは、ほんの10年前と比べても増えています」 輸血が必要になるのは緊急時だけにとどまらない。イヌの体が自分自身の血液細胞を攻撃してしまう免疫介在性疾患は、イヌに輸血が必要となる最も一般的な原因の1つだ。このような場合、輸血によって時間を稼ぐことで、薬が効いてイヌの体が自ら病気と闘いはじめるようになるまでの間、イヌの命をつなぐことができる。 この分野が成長を続けるにつれ、飼い主の意識を高める必要性も大きくなっている。 「ほとんどの人は、自分のペットが危機に直面するまで、ペットの供血について考えることはありません」とハウ氏は言う。「けれども1回の供血でどれだけのことができるかを知れば、その重要性がわかるはずです」
供血犬に向いているのはどんなイヌ?
イヌのさまざまな血液型のうち、輸血の際に重要なのは「DEA1」だが、これには陽性と陰性の2つの型がある。供血犬として理想的なのはDEA1陰性のイヌで、すべてのイヌに供血できる万能ドナーとなる。 英国で供血犬として認定されるには、厳格な基準を満たしている必要がある。年齢は1歳から8歳まで、体重は25キログラム以上、健康で、落ち着いた性格でなければいけない。 ハウ氏によると、多くの飼い主は、困っている他のペットを助けたいという思いから、ペットの供血登録を行っているという。自分が献血するのと同じ理由だ。 「神経質なイヌは供血犬には向いていません」とハウ氏は言う。「知らない人々との出会いを楽しみ、動物病院でも落ち着いていられるイヌが必要です」。供血犬候補のイヌは、病気や投薬の有無を確認するための健康診断も受ける。 供血犬として認定されたイヌは、クリニックで動物看護師によって局所麻酔をかけられ、採血はものの数分で完了する。その後、イヌにはおやつが与えられるので、供血が大好きというイヌもいるという。米国では、供血犬の飼い主にクリニックから無料治療券やフード券が提供されることもある。 採取された血液は人間用の標準的な採血バッグに入れられ、赤血球、血漿、血小板に分離される。ハウ氏は、「血小板は血液を固めるのに不可欠ですが、わずか5日で使えなくなってしまいます」と説明する。「これに対して血漿は何年も凍結保存が可能なので、頼れる資源となります」 血液製剤の需要が高まるにつれ、このサービスをネコにも拡大する可能性が出てきた。まだ完全に稼働しているわけではないが、英国ペット血液バンクでは、健康で、人に触られたり人と一緒に過ごしたりするのが好きな大型のネコの登録を受け付けている。