「イノシシもボラもこんなにウマいとは!」一見不人気だけど、加工・調理して食べてみたら実はむちゃくちゃおいしい食材の秘密 ポイントは「捌き方」にアリ
かつて「まずい」と評判だった食材が、後に高級食材になっていることがある。たとえば大トロ。脂っぽ過ぎて江戸の人々は好まなかったと言われる。そしてウニ。ソ連時代のロシアでは大量に取れても数ルーブルにしからなかったという──。現代でも、一般的にはそこまでおいしいと思われていなくとも、実はウマい食材は多いと語るのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏。佐賀県唐津市で山と海に囲まれて暮らす中川氏が、以前はわからなかった、一見不人気だけど実はおいしい食材の秘密についてレポートする。 【写真】イノシシカレーにボラの漬け丼など、筆者が作った「実はおいしい食材」料理の数々
* * * まずはイノシシです。臭い、固い、などと散々な言われっぷりですがそれは捌き方が悪いのかもしれません。私がいつももらうのは、イノシシ捌きの名人で佐賀県伊万里市の猟友会会長が捌いた個体です。時期としては10月~12月がシーズンです。罠にかかったイノシシの頭部の急所にグサリと槍を刺し、血抜きを一気に行う。そして内臓を除去するのですが、膀胱を破らないようにするのがポイント。何しろ尿が臭いんですよ。内臓を傷つけることなく見事に切れたら、後は空洞となった腹の中を水で丁寧に洗う。この段階で血はほぼなくなっています。 その後は農家の金吾さんの所有する小屋にイノシシを吊るし、皮をはぎ、肉を各部位に分けていくのです。新鮮なイノシシ肉はワインのロゼのような色をしています。初めてイノシシの肉をもらったのは2022年5月ですが、以来、牛と豚のカレーは一切作らなくなりました。何しろ、このイノシシが牛と豚の良い点を掛け合わせたような味で、大きめに切ったイノシシを圧力鍋で煮込めばホロホロになってくれるのです。豚汁ならぬイノシシ汁もウマいです。
釣り人の間では「食べない魚」というのが通説
続いてはボラです。先日、鮮魚店でボラの真子(卵)を買って自宅でカラスミを作ったのですが、これがすこぶるウマい。正直、店で買ったもの、飲食店で提供されたものよりもウマい。そこで、実際ボラを釣りに行ったのですが、足場が悪く、さらに底に石がゴロゴロしているため、なかなか釣れない。釣れたのは2匹とも雄だったので残念ながらカラスミは作れず。 しかし、家に帰って3枚おろしにし、刺身と漬けにしてみたらこれがウマい。正直タイかスズキか、といった味がするんですよ。釣れたらすぐに頭を落とし、血を流して鱗と内臓を取ってしまう。これで臭みはなくなります。まぁ、外洋で釣ったのでもともと臭みはなさそうですが。ボラについては、河口の排水のあたりで群れを作り、身がクサい、という言われ方をし、真子を取られたらそのまま捨てられがちです。そしてメスの個体の方が少ないため、釣り人の間では「食べない魚」というのが通説。さらに、巨大な鱗と巨大な目が不気味がられています。 日本の各所ではボラがスーパーで売られていますし、銀座の寿司店「味川」ではボラの寿司を握っていた記録が残っている(1991年発売『ベストオブすし』文藝春秋社・参照)。私は酢飯の上にネギとボラの漬け、サーモンの刺身、刻みのりとゴマを乗せた丼を作りました。かつてJAS規格が今ほど厳格ではなかった時代、ボラを鯛と偽って売っていた業者もいた、という話も納得でした。イノシシとボラについては、このように捌き方が重要です。 最後にこれまた釣り人に不人気の食材を。ヒイラギというスズキ目の小魚ですが、これは背びれと腹びれが剣山のように鋭く針から外す時にケガをすることがある。表面がぬめぬめのため、触ると気持ち悪い。しかも、キスを狙っているのに毎度釣れるのはこいつ、ということで釣り人はボンボン捨てていきます。しかし、この魚、ムニエルにするとウマいです。塩で洗えばぬめりはなくなりますので、頭と内臓を落として小麦粉をつけてバターとニンニクでソテーし、最後に醤油をたらす。絶品の完成です。 刺身でもウマいのですが、さすがに体が小さすぎて労の割に得られる身は少ないです。 【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。