トランプ&マスクの「厄介すぎる」コンビ、日本企業が直面する3つの大きな「壁」とは
中国のEVメーカーBYDを阻止
さらに厄介な事態となりつつあるのが、イーロン・マスク氏の政府効率化省のトップ就任である。マスク氏は実業家としての経験を生かし、連邦政府予算を大幅に削減すると主張しているが、この点だけを考えればあくまで米国の内政問題であり、米国に輸出、現地法人でビジネスを行う日本企業には直接関係ないように思える。だがマスク氏の本当の狙いが政府の効率化だけでなく、自らのビジネスへの利益誘導ということになれば話は変わってくる。 よく知られるようにマスク氏はEV(電気自動車)メーカーであるテスラのCEO(最高経営責任者)だが、トランプ氏はEVに否定的で、EVに対する補助金カットも表明している。それにもかかわらずマスク氏がトランプ氏に巨額の献金を行い、全面的に支援をした理由は、規制緩和による自らのビジネス展開にあるとされる。 テスラは、EV業界ではナンバーワンの地位にあるが、今後、テスラの地位を脅かす可能性があるのは中国のEVメーカーであるBYDとされる。トランプ氏は中国からの輸入に高い関税をかける方針なので、実現すればBYDの米国進出はほぼ不可能となる。すでに米国内で高いシェアを持つテスラにしてみれば、補助金が維持されることよりも、BYDが米国進出を断念することのほうがはるかにメリットが大きい。 これだけがマスク氏の野望ということであれば、EVを不得意とする日本メーカーにとっては悪い話ではないかもしれないが、そうは問屋がおろさないだろう。
自動運転システムを握られることのインパクト
マスク氏がトランプ氏に接近した最大の理由は、自社が開発する自動運転システムに関する規制を取り払うことで、全米における自動運転システムのスタンダードを確立するところにある。テスラは完成度の高い自動運転システムを持っているが、連邦法の規制によって商用化がうまく進んでいない。また自動運転車が起こした事故に関連して訴訟も起こっており、法的な問題もクリアしなければならない。 自身が政府効率化省のトップとなり、多くの規制を緩和すれば、テスラの自動運転システムにとって有利な状況になる。加えてトランプ氏は、自身に極めて近い人物を司法長官候補に指名しており、トランプ氏の意を汲む人物が就任する可能性が高い。司法省を配下に置けば、訴訟の方向性についても、相当程度コントロールできるようになるだろう。 一連のマスク氏の野望が実現し、テスラの自動運転システムが米国における標準となった場合、日本メーカーにとっては厳しい状況となる。米国で完成車を販売するにしても、テスラのシステム搭載あるいはシステム接続が求められ、高い利用料を支払う必要が出てくるかもしれない。 いずれにせよ第2次トランプ政権が本格的にスタートした場合、日本企業にとっては逆風となる可能性が高い。これまで日本メーカーは米国市場を自由に活用することで業績を上げてきたが、こうした古き良き時代はもはや過去のものとなりつつある。
執筆:経済評論家 加谷 珪一