トランプ&マスクの「厄介すぎる」コンビ、日本企業が直面する3つの大きな「壁」とは
トランプ氏が大統領に返り咲き、実業家イーロン・マスク氏を抜擢したことで、世界のビジネス界に激震が走っている。中でも日本の製造業は米国市場を主戦場としており、場合によっては深刻な打撃を被るだろう。トランプ&マスクが日本にもたらす影響について探る。
パッケージ・ディールになる可能性も
トランプ氏は大統領に復帰するにあたり、第1次政権とは異なる経済政策を掲げている。中国からの関税を60%まで引き上げると同時に、日本やドイツなど友好国からの輸入に対しても10%の関税適用を宣言している。加えて実業家のイーロン・マスク氏を政府効率省のトップに据えるとしており、規制撤廃や公務員数の削減、大胆な歳出カットなど3大改革を行うとしている。 トランプ氏とマスク氏がタッグを組んだことで、日本の製造業には甚大な影響が及ぶ可能性が出てきた。 最初に懸念されるのが関税引き上げによる輸出減少だろう。続いては現地生産を行う日本企業の部品調達などサプライチェーンへの影響、さらに言えば、(マスク氏の方針次第だが)規制緩和がもたらすビジネス環境の変化である。特に規制緩和対象に自動運転システムが入った場合、日本メーカーの米国での事業展開に逆風となる。これらについて、順次解説していく。 米国が日本からの輸入に関税をかけた場合、理屈上、日本からの輸出は大幅に減少する。減少幅については試算のやり方次第で変わるが、関税がフルに課された場合、対米輸出の1割が消滅するとの見方もある。いずれにせよ、関税が実施された場合、日本メーカーの業績にはマイナスの影響が及ぶだろう。 トランプ氏は交渉好きとされ、日本やドイツに対する関税措置は、防衛装備品の購入や在日米軍駐留費の負担増など、他の要求をのませるための取引材料である可能性も高い。そうなってくると、もはや産業界のみで対応できる問題ではなく、日本政府と一体となった交渉が求められる。
サプライチェーンの見直しは必至
メーカーの中には、関税が課された場合、日本国内での生産を取りやめ、米国での現地生産に切り替えるところが出てくるだろう。現地生産化すれば、日本メーカーの製品も名目上は米国製になるので、米国市場で自由に販売できる。 だが、ここで問題となるのが当該企業のサプライチェーンである。 米国メーカーは、米国内の工場で最終製品を生産するのみならず、部材についても相応の割合を米国内から調達している。一方、日本メーカーの場合、米国現地法人での生産を行ったとしても、基幹部品や素材の多くは日本から輸入しており、セットメーカーとして最終製品の組み立てだけを行っているケースも少なくない。 この場合、現地生産比率を上げたところで、日本から輸入する部品に関税が課されてしまうと、結局はコストとなって跳ね返ってくる。こうした事態を避けるには、サプライチェーンそのものを見直し、最終製品の組み立てはもちろん、部品や素材の調達も含めて、米国内で完結させる必要が出てくるだろう。 こうしたサプライチェーンの再構築に必要なコストは高く、輸出減少によって国内では空洞化が進展する恐れもある。米国に製品を輸出して得たドルを日本円に変えるという為替取引が消滅するため、為替市場では円安が進みやすくなるだろう。 さらに厄介なのがメキシコの扱いである。トランプ氏は中国企業などがメキシコに現地法人を作り、国籍を偽装する形で米国に迂回輸出していると激怒しており、メキシコからの輸入にも高関税をかけると主張している。 現実問題として、メキシコとアメリカの市場は一体化しつつあり、いきなり高い関税をかけるという政策はあまり現実的とは思えない。おそらくだがトランプ氏は、メキシコで作られる製品や半完成品について、国籍認定をどうするのかという問題に焦点を当ててくるだろう。 つまりメキシコで作られた製品について部品レベルまで検証を行い、外国依存度が高くなければ、メキシコからの輸入は自由化するといった流れが想定される。このため日本メーカーがメキシコを活用する場合においても、当該法人で調達する部品や素材がどこから来たのかという点に注意を払う必要が出てくる。 いずれにせよ関税が現実のものとなった場合、日本企業がサプライチェーンの大幅見直しを迫られることは間違いない。