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映画「花と雨」は映像で語った青春映画!? 土屋貴史監督にインタビュー「ラップの世界に言葉を付け足しても意味がない」

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ザテレビジョン

笠松将主演の映画「花と雨」(Blu-ray&DVD発売中、各動画配信サービスにて配信中)で、長編商業映画デビューを果たした土屋貴史監督。 【写真を見る】「花と雨」制作中に談笑する主演の笠松将(写真右)と土屋貴史監督 ヒップホップと出会い、成功と挫折を繰り返しながら成長していく青年・吉田(笠松)の姿を、激しくかつ美しく描いた音楽&青春ムービーはいかにして生まれたのか、土屋監督に話を聞いた。 ■ 「花と雨」を聴いた当初は「自分の人生とは遠い話だと思った」 日本のヒップホップ界で“レジェンド”と称されるアーティスト・SEEDAのアルバム「花と雨」を原案にした同名映画「花と雨」。 フリーのディレクターとしてTVCMや、「Perfume」や「水曜日のカンパネラ」「ゆず」「Björk」など多くのアーティストのMVなどを手掛けてきた土屋貴史監督にとって、初の長編映画となった。 ――実現までの経緯を教えていただけますか? 「名古屋を拠点にビートメイカーとして活動しているRamzaさんの作品がとても好きで。完全に自主制作で彼のビートを使って短編映像を撮ったんですね。その作品がラッパーの界隈で少し話題になったみたいで、SEEDAさんからも『すごく良かったから、一緒に映画を作りませんか?』という内容のメールをいただいたんです。で、最初は半信半疑だったんですけど、SEEDAさんが日本のヒップホップ・シーンに理解のある藤田晋さんに話を持っていって、本当に映画を作れる状況になったんです。そうなったら、もちろん断る理由はなくて」 ――それぞれの思いが連鎖して生まれた作品ですね。1979年生まれの土屋監督はSEEDAさんとほぼ同世代ですが、SEEDAさんの作品は以前から愛聴してたのですか? 「はい。最初に聴いたのはI-DeAさんのコンピレーション『self expression』(2004年)でした。アルバム『花と雨』(2006年)もリリースされたタイミングで聴いていて。ただ、自分の人生とは遠い話だと思って、その頃はインスト中心のものの方が好きだったこともあり、個人的にはそこまで響かなかったんです。時間が経ってから、その真価がわかってきたという感じですね」 ――本作の特色として、ストレートな伝記映画というわけではなく、SEEDAさんの伝記的な内容がリリックに刻まれていた『花と雨』というアルバムの、リリースから約14年を経ての映画化というところがユニークです。本作の成り立ちを、観客はどう解釈したらいいのでしょうか? 「まず、言えないことが多すぎる人は、本当の意味での伝記映画は作れないのかもしれません」 ――特に日本では…ですよね。 「そうですね(笑)。ただ、SEEDAさんというラッパー、そして『花と雨』というアルバムは、日本のヒップホップの中でもリアルを追求している側のラッパーであり作品であるので、『花と雨』を映画化するということが、リアルを追求する作業であったのは間違いないです。『花と雨』のリリックの内容やそこで起こっていることをなぞるのではなく、あの作品の中にあったリアルを追求していくという」 ■ 長編を撮りたかった土屋「仕事と、本当にやりたいことは強くリンクしていないのかも」 ――本作を撮る上で、何か参考にされた作品はあったのでしょうか。 「直接反映されているかどうかは別として、参考にした作品はたくさんあります。例えば、バリー・ジェンキンスの『ムーンライト』とか、サフディ兄弟の『神様なんかくそくらえ』とか、あとはダルテンヌ兄弟の作品とか。特にサフディ兄弟の作品はそうですけど、登場人物に全然共感できなくても、スクリーンに釘付けになって、観ざるを得なくなっていくような作品にしたいという思いはありましたね」 ――長編映画を撮りたいという思いは、ずっとあったんですか? 「それはずっとありました。いつか長編を撮りたいと思って、いろいろアイデアは考えてきましたけど、なかなか実現までもっていくのは大変なので」 ――CGをはじめとする最新テクノロジーにも精通している土屋監督ですが、本作にはその要素はほとんど入ってませんよね。必要としなかったというのもあるんでしょうけど。 「もともとCGを始めたのは、友達もいなかったし、一人で映像を作る上でそれが手段として現実的だったからなんですよ。だから、そこに関して強いこだわりがあるわけではなくて。今作の話をいただくきっかけとなったRamzaさんの音源を使った短編映像も、普段は広告の仕事が多いので、毎年1本くらいは自分が本当に作りたい作品を作りたいというところから生まれた作品でした。なので、自分が映像で仕事としてやってきたことと、自分が本当にやりたいことというのは、そこまで強くリンクしていないのかもしれませんね」 ■ オーディションでやたらとキレていた笠松将は「良い意味でめんどくさい人(笑)」 ――主演の笠松将さんは、どのように決まったのですか? 「オーディションで、笠松さんはやたらとキレて帰っていったんですよ(笑)。その感じが、脚本の吉田のキャラクターに近いところがあって。背が高かったので、元々は吉田役で来てくれていた訳ですらなかったのですが、その時のお芝居もとても印象に残っています。最初はSEEDAさんの容姿に似てる役者っていう考えもあったんですけど、そもそもそんな人はなかなかいないし、脚本のイメージを体現できる人という基準で彼にお願いすることにしました。実際に撮影に入ったら、良い意味でめんどくさい人でしたけどね(笑)。若さがそのまま出ているというか。でも、きっと彼のその感じもこのキャラクターには合っていたと思います」 ――オーディションの基準には「ラップが上手にできるか」というのはなかったんですか? 「SEEDAさんが『ラップなんて誰でもできるから』と言っていて、天才がそう言うならその通りなんだろうと(笑)、そこはほとんど重視しませんでした。ただ、やってみて気づいたんですど、役者とラッパーって相性がとても悪いんですよ」 ――というのは? 「役者はある意味でものを入れる器なので、優れた役者だったら練習をすればラップの完コピはできると思うんですよ。でも、ラッパーって自分の内にあるものを吐き出す職業じゃないですか。なので、完コピができれば、それが正解というわけではなくて。あと、笠松さんのヴァースはSEEDAさんがすべて書いているんですけど、フローの仕方は撮影直前まで届かないことがあって、そういう点でも大変でしたね(笑)」 ――でも、笠松さんは普通の演技だけでなく、ラップのシーンも見事でした。 「撮影の最後の方は、SEEDAさんも『大事に歌ってくれればそれで良いです』って言ってました(笑)」 ■ 北野武監督の『キッズ・リターン』をイメージ「説明しすぎる作品は苦手」 ―― SEEDAさんのファンや日本語ラップのファンというのは、もちろん本作の企画段階から観客の想定には入っていたと思うんですけど、本作はもっと普遍的な青春映画であることを目指しているように思いました。 「SEEDAさんが言っていのは、北野武監督の『キッズ・リターン』をアップデートしたような作品にしたいということで、それはイメージとして共有していました。日本映画にも多いですけど、自分は説明しすぎる作品が苦手で、今回の企画だったら結構突き放した描写もできると思ったんですね。この作品はラップの世界を描いた作品なわけですけど、ラップってそもそも言葉だから、それ以上あまり言葉を付け足しても意味がないと思って。できるだけ言葉ではなく、映像で語ることを意識して取り組みました。だから、脚本にあったのに、最終的に削ぎ落とした台詞やシーンもかなりありましたね」 ――監督自身は、「こういうお客さんに観てほしい」というのはありますか? 「映画好きに観てほしいです。正直言って、あまり一般のニーズに合わせて映画を作ることに意味があると思えないんですよね。日本の映画監督で、一般のニーズに合わせて映画を作ってる人がものすごく大成功をしていたら、そういうやり方も参考にはなるんでしょうけど、みんな超大変そうじゃないですか(笑)」 ――確かに。 「どうせ超大変なんだったら、好きなものを好きなように作るしかないなって」 「映画好きに観てほしい」と断言する土屋監督の自信作。映画「花と雨」冒頭シーン4分のノーカット映像は「ザテレビジョンYouTubeチャンネル」にて独占公開されている。(ザテレビジョン)

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