【プロの眼】環境や健康分野では協力も?どうなるバイデン政権移行後の米中関係
トランプ政権で悪化した米中関係だが、バイデン政権に移行することで変化はあるのか。楽天証券経済研究所の加藤嘉一氏は、中国は本気で米中関係を修復したいと望んでおり、環境や健康に関する分野では米中に協力の可能性も出てくるが、その裏で両国は大国として世界での影響力向上を図ろうとしていると分析する。 ーートランプ政権からバイデン政権に移行したことを中国はどういうふうに見ているんでしょうか? 米中関係というのは経済だけではなく、軍事力や政治体制、イデオロギーも含めて総合的な関係ですから、その観点からすると中国は内心でほほ笑みながら見ていたと思います。と言いますのは、記憶に新しい連邦議会への乱入であったり、非常に混乱した政権移行であった。それに対して中国は「見てみろ。アメリカの民主主義も問題がある」ということを訴える機会になりました。 ただ一方で、トランプ政権の4年間で米中関係は悪化しましたから、中国としては本気で修正すべく、バイデン政権としっかりやっていきたい。習近平さんとバイデンさんは副主席、副大統領時代に一緒に仕事をした経験があることから、予見性をバイデン政権は持っている。 仕事の関係としてはやりやすいということで、中国としてはトランプ政権よりはマシになるんじゃないかなと考える一方、バイデン政権として対中強硬的な姿勢、これは軍事も科学技術も含めてですけれども、非常に問題だということで慎重姿勢を崩していないと思います。 ーー対立軸はまだあるものの、バイデン政権は就任初日からパリ協定の復帰など環境問題、それからWHO脱退撤回に関する大統領令に署名するなど積極的に動いています。実は中国と歩み寄れる、というか協力せざるを得ないところがあるのではないですか。 おっしゃる通りですね。やはり中国としてはアメリカとの関係をきっちりと安定的にマネージするという意味で競争、対立だけをアピールはできない。気候変動の問題、コロナの問題、こういった問題に関しては、2国間ではなくて多国間の舞台で、アメリカと協力をしていく。米中2大国が責任のある大国関係を演じていることをアピールしていくと思います。 実際に中国外務省の華春瑩報道官も、バイデン政権のパリ協定への復帰、WHO脱退撤回に対して歓迎の意を表明しているので、この分野は責任ある大国関係というものを打ち出していく。ただ、双方がお互いの野心を持って取り組んでいくので、今WHOがコロナウイルスの発生源をめぐって中国で調査をしていますけれども、ここにアメリカが帰ってきて、米中関係、コロナ、WHO、こういった微妙な三角関係の展開も注目されると思います。 ーー中国に関して言いますと、コロナの中でも2020年は唯一のプラス成長を維持したということで非常にその存在感は大きい。そして世界の中でも、経済という意味では主導して引っ張っていく立場になっていたわけですけれども、先ほどおっしゃっていた今後の米中の対立軸というのは特にどういったところになりそうですか。 私が非常に注目しているのは科学技術分野ですね。ファーウェイであったり、半導体やAIは米中間で今後の経済力、軍事力を決定づける分野だと思うので、中国はこの過去4年間の米中対立を受けて、特に技術、エネルギー、食料の3つの分野においては自力再生ということを考えていると思いますね。 同時にこれから10年間、科学技術、特に基礎研究を充実させるべく、10年計画でやっていく。アメリカが中国を封じ込めてくるだろうということに対する一種の答えとして、中国は特に技術、科学技術の分野で自力再生しなければいけない。それをもって14億人というマーケット、今年の4月にまた新たな人口統計が出ますけれども、これを生かしていくんだという、そういった新たなニューノーマルのフェーズに入っていると思います。 ーー内製化していくということですね。「メイド・イン・チャイナ2025」というのがありましたがあれは製造業です。それに対して今度はさらに科学技術、そちらの方も10年単位でやっていくということですか。 はい。先ほどおっしゃった「メイド・イン・チャイナ2025」が主に産業政策で、政府の国有企業に対する補助金なんかが問題になってきましたけれども、この10年計画をまたいで、2030年までに特に基礎研究に膨大な資源と資金を投入して、その基礎から中国の技術力、企業のブランド力を生かして米国に対抗していこうとしている。そういった意味で先ほどおっしゃった内製化というか、中国が経済産業の分野で内向きになるというリスクは存在していると思います。 ーー習近平国家主席はその10年も自分が率いていこうという意思があるんでしょうか? 現段階で私はわからないですけれども、少なくともあらゆる状況証拠を見ている限り、2022年、来年の秋に新たな党大会があって、習近平さんの去就が注目されますけれども、私自身は、2027年、そして2030年にその辺までも視野に入れた上で、習近平さんは日々健康管理も含めてやってると思いますね。 ーーそういった環境を米中関係がある中で日本はどういうふうに立ち振る舞うべきなのか、立ち位置はどういうふうにご覧になりますか。 米中通商摩擦という意味ではトランプ政権と比べれば若干温和的になると思っています。ですからトランプ政権よりはマシになるかもしれないですけれども、依然として米中の通商摩擦がサプライチェーンの構造に及ぶ状況、これは日本企業・経済にとっても厄介な存在になると思います。 ただ一方で、米中それぞれが新しい政策を発表しているわけですね。例えばバイデン政権は環境インフラに4年間で2兆円投資すると言っている。中国も金融の分野、環境、デジタルといった分野で新たに開放していく、新しい政策を打ち出すと言っていますから、日本企業としてはそれらに対して、米中の対立のリスクを避けつつも、米中それぞれの政権がなす政策にうまく乗っかっていく。 当然そのためにはまずは菅総理がこういった米中による2大国との関係をきっちりと安定的にマネージする。その上で企業がコロナ禍の新たな環境の中でビジネス、新たな投資の機会を模索できるような環境を整えていく。そういったことが求められるように思います。