「あの人がお父さんになるのよ、パパって呼びなさい」再婚カップルが陥る”正しい親”幻想
「あの人がお父さんになるのよ、パパって呼びなさい」
実父との突然の別れという大きな喪失感を抱えているときに、再婚してまもない実母から継父を「パパ」と呼ぶように言われたというエピソードも語っていました。自分にとって大事な実父の存在を軽視して、継父を「父親」とみなすよう求める実母の態度に、怒りと不信感を抱えます。 〈 「今度からあの人がお父さんになるのよ、パパって呼びなさい」って言われて、で、私はそのとき何も疑問に……、うーんと、私の中では、その、パパという人は本当の父ひとりだったので、えーと、その男性の名前にパパってつけて「何とかパパって呼べばいいの?」って何も疑問に思わないで言ったんです。パパは本当の父親ひとりで、別のパパっていう認識だったので。(中略)母親から「何でそんなこと言うの? パパでいいじゃない」ってものすごく怒られたんですね。 私は当たり前のように、本当の父とは別のところに新しい父(継父)を並べていたんですけど、こう、母の中ではまったくそうでないというか、多分そう、私がそう思っていると思いつきもしないんだろうということがわかったので。〉 沙織さんと継父との十数年にわたる関係のなかで、継父からは「父親」のようなふるまいもないので怒られたこともなく、反抗や衝突も起こらなかったと言います。沙織さんからも仲悪くする必要はないが仲良くしたいとも思わないというように、双方のあいだでほとんど情緒的交流がなく、一定の距離感を保ったままの関係であったことがわかります。
実母の期待に応えて継父を「パパ」と呼んでいるけれども、「父親」とは思っていない。沙織さんは、実父への想いを無視した実母への不信感と、会えなくなった実父への思慕を持ち続け成長しました。そのことが、継父との関係を心理的に避ける行動につながり、継親子関係を発達させなかった要因といえるかもしれません。 ただし、継父は生活費や教育費などの経済的側面から沙織さんをサポートし続けており、教育達成(大学院進学)や社会的自立の後押しとなる肯定的な効果をもたらしています。 〈 生活のお金の半分は父(継父)から出ているので、そういう意味ではとても感謝してましたし、ありがたい人だと思っていたんですが、でも、特にその、仲悪くする必要はなかったですけれど、仲よくしようという気もそんなに起こらず。何でしょうね、やっぱりあんまりお父さんとは思ってなかったのかな。「一緒に住んでいる人」とか、もしくは「スポンサー」のような。〉