突然売れ始めたPC周辺機器やサプライ用品の裏で何か起こったのか
連載:牧ノブユキのワークアラウンド(PC・スマホの周辺機器やアクセサリー業界の裏話をお届けします) 突如売れ始めた“iPodではない”携帯音楽プレーヤーの謎 PCやスマートフォンの周辺機器およびサプライ用品は、本体機器の動向によって売れ行きが大きく変わる。大ヒットの恩恵を被ってボロもうけのこともあれば、本体機器の突然の終息によって、ニーズのなくなった在庫の廃棄を余儀なくされることもしばしばだ。 もっともこれらはある程度「そういうもの」として、当初から余分な利益を乗せて販売されているため、メーカーのダメージはあまりない。そもそも本体機器のライフサイクルを見ていれば、次のモデルチェンジに向けていつから在庫を絞り始めればよいか、おおむね予想できるからだ。 ところが、こうした製品サイクルとは無関係な外的要因によって、爆発的に売れるようになったり、また逆に売れなくなったりするケースがまれにある。最近でいえばコロナ禍におけるWebカメラの品薄化がまさにそうだ。 他業界では、天候などの要因や、テレビで取り上げられたことがきっかけによる突発的なブームで、店頭の在庫が一気になくなることはよくあるが、PCやスマホの業界はそうした要因はもともとあまりないだけに、いざそうした事態に直面すると、右往左往する羽目になりがちだ。 今回から2回に分け、この四半世紀の間に、飛ぶように売れ始めたケース、およびピタッと売れなくなったケースをそれぞれ紹介する。今回は前編として、製品が突然飛ぶように売れ始めたケースを紹介する。
バルク品の登場で突如として売れ筋に 「フロッピープラケース」
最初に紹介するのは、今や懐かしいフロッピーディスクを収納するプラケースだ。初期のフロッピーディスクは1枚ずつプラケースに封入された状態で販売されており、フロッピーディスク1枚を買えば、プラケースも必ず1枚付いてきた。それ故、破損などの場合を除けば、プラケースが単体で売れる余地は全くなかった。 それがガラリと一変したのは、フロッピーディスクが1996年を境にプラケース添付をやめ、25枚や50枚という単位で、バルクで売られるようになったことだ。筆者も手元に正確な資料が残っていないのだが、業界団体の主導により、当時フロッピーディスクでは大きなシェアを持っていた花王などを中心に、一斉にプラケースなしのバルク品の販売を始めたのをよく覚えている。 この影響で、それまでせいぜい破損時の交換用として、数枚セットで店頭販売されていたフロッピーのプラケースが、何かが取りついたかのように爆発的に売れ始めた。プラケースが付属しなくなった以上、プラケースなしでの収納に切り替えればいいだけのように思うが、既にプラケースありの収納に慣れていたユーザーは、収納方法を統一すべく、プラケースを買い足した方が合理的と判断したのだろう。 こうしたことから10枚パックや50枚パックなど、プラケースのまとめ売りも盛んになったわけだが、ときを同じくしてCD-ROMの台頭などによりフロッピーディスクの市場そのものが縮小、撤退するメーカーも相次ぎ(前出の花王も1998年にはフロッピーディスク事業を終息している)、並行してプラケースの売り上げも下降線をたどり、数年も立つと市場そのものが消滅してしまった。 中にはプラケースを製造しすぎたメーカーもあったのか、行き先のなくなったフロッピープラケースが卓上カレンダーの収納ケースとしてノベルティ業界に大量に流れたこともあった。まだブロードバンドが到来するよりも前、2000年前後ならではの、牧歌的な出来事だったといえる。