「めちゃくちゃ心配」された知的障害の女性が出産、「めっちゃいいお母さん」に 子育てを可能にした秘訣とは
北海道の障害者グループホームで、知的障害のある入居者が運営法人から求められて不妊手術・処置を受けていたという問題が昨年、明らかになった。「知的障害者に子育ては無理だろう」。そう考える人は多いのではないか。だが、知的障害の娘が出産したある母親は「そんなことはない」と言う。障害の程度にもよるだろうが、実際問題、どうやっているのか。そこには、障害特性に応じて子育てを可能にする「先回り」の策があった。(共同通信=市川亨) ※この記事は記者が音声でも解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」をお聞きください。https://omny.fm/shows/news-2/29 ▽ホワイトボードに「やってもらうこと」 大阪府内にある団地の一室。佐藤葵さん(23)が夕方、長男の陽耀(はるき)君(1)を保育園から連れて帰宅すると、間もなくなじみの女性ヘルパーがやってきた。 葵さんには軽度の知的障害と注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症がある。日常会話や、料理など一定の家事はできるが、すべてこなすには手助けが必要なため障害福祉サービスで週3回、ヘルパーの家事援助を受けている。
ヘルパーはまず、冷蔵庫に貼ってあるホワイトボードを確認。やってもらうことを忘れっぽい葵さんが、あらかじめ必要なことをメモしているからだ。この日は「夕食作り2人分」「帰りゴミ捨て」などと書いてあった。 ヘルパーが料理を始めると、葵さんは陽耀君の食事を作って食べさせたり、おむつを交換したり。女性ヘルパーは「葵さんは離乳食で指導されたことをノートに書いて、アレルギーもチェックしている。めっちゃいいお母さんです」と褒める。家事の段取りも葵さんが自分で考えている。 ▽メモを付ける習慣 葵さんは学校の後輩を通じて知り合った健常者の夫(21)と2020年に結婚。22年3月に陽耀君を出産し、団地で3人で暮らす。 同じ団地で別の棟に住む葵さんの母、早川やえこさん(45)は「まさか娘が結婚して子どもを持つとは…。そりゃ、めちゃくちゃ心配でしたよ」と振り返る。 小学校で勉強についていけなかった葵さんは忘れ物も多く、途中から特別支援学級に。中学では教師の配慮に欠ける言動で不登校になり、「死にたい」と自傷行為をすることもあった。しかし、特別支援学校の高等部では、早川さんが葵さんの特性を学校側に細かく説明。教師に恵まれ、通うことができたという。