苦境の関西経済で「大阪・堺の自転車産業」が絶好調な理由
訪日外国人客(インバウンド)需要の激減に苦しむ関西経済だが、巣ごもり消費などの新たな需要を捉えて成長する企業も目立ち始めている。中でも注目のひとつが、大阪・堺が一大拠点となっている自転車業界だ。(帝国データバンク情報部 昌木裕司) 【この記事の画像を見る】 ● 新型コロナ禍でも 好調な自転車業界 2020年1月15日に国内初の新型コロナウイルス感染症患者が確認されてから1年が経過した。感染症対策で3密回避が求められ、人々の行動が大きく制限されることとなった。2020年4~5月の緊急事態宣言期間中、商業施設は閉店、学校も休校となるなど国民生活に大きな影響を与え、経済は停滞した。特にダメージが大きかったのは、飲食店や対面販売主体の小売店、ホテル・旅館と、その関連業界だ。感染防止のため移動を制限され、客足がばったり止まり、売り上げが急減した。 新型コロナ関連倒産の発生状況からもその傾向は明らかだ。帝国データバンクの調べでは、新型コロナ関連倒産は全国で972件(2月2日現在)発生、業種別では飲食店が156件と最も多く突出している。ホテル・旅館も74件と高水準で推移している。 他方、感染症対策の一環でオフィスワークからテレワークへの移行が進み、パソコン・周辺機器需要が伸長し半導体供給が逼迫(ひっぱく)、自動車の生産にも影響が及ぶなど副作用も見られるほどだ。 さらに巣ごもり需要の高まりを捉えた、食品、白物家電、ゲーム関連などの業界では最高益を計上した企業も多い。大阪に本社を置くゲームソフト大手のカプコンは、4~12月期で増収増益、純利益は34.1%増の175億2300万円と過去最高、21年3月期の純利益予想も前期比32%増の210億円と、達成すれば4期連続の最高益更新と好調を維持している。
自転車業界もこのコロナ禍において業績が好調な業界のひとつである。3密回避のため、公共交通機関を避け、通勤・通学に自転車を利用する人が増えてきたことや、テレワークなど在宅時間が増えたことで運動不足解消のため自転車の利用が増えている。SBI日本少額短期保険が2020年9月に行った「コロナ禍における自転車利用の変化に関するアンケート調査」によれば、回答者の約3割が新型コロナウイルスの影響によって自転車に乗る機会が増えたという。 こうした変化は日本のみならずヨーロッパなど世界的に広がっており、自転車業界はコロナ禍にあっても好調を維持している。特に大阪は、自転車部品の世界最大手であるシマノが本社を置き、シマノに部品を供給している企業などが集まっている。 ● 大阪堺市は 自転車産業の一大拠点 大阪・堺は、古くから自転車部品生産の一大拠点となっており、その歴史は1900年頃にさかのぼる。当時の自転車は外国製で、人々も乗り慣れておらず、衝突や転倒で壊れることがよくあった。それを堺の鍛冶職人が修理し、部品も手づくりで生産するようになったことから、堺では修理用部品の生産が活発となっていった。 第1次世界大戦の影響で欧米から自転車の輸入がストップすると、国産化が進み、堺は自転車産業の拠点としての地位を次第に確立していく。第2次世界大戦後の復興の過程では、自転車部品が注目され、優先的に原料が配分されるなどの優遇措置が取られ、堺は製造卸メーカーと部品メーカーが集積する一大産地を形成する。 しかし、90年代以降は安い中国製が国内市場に入り、大手専門チェーン店などが輸入車を直接買い付け、市場を支配し始めると、苦戦を余儀なくされた国内メーカーは、高機能かつ高耐久性のギアや変速機、ブレーキなどのパーツの開発に注力。 現在では、スポーツ自転車向け部品で世界シェア8割超を握るといわれる「自転車業界のインテル」シマノに代表される部品メーカーが日本の自転車産業を支えている。