感染者が出て職場が閉鎖し給料が激減。シェアハウスも追い出され〈ルポ・コロナで女性が直面する収入減・雇い止め・DV〉
新型コロナウイルスが猛威を振るい始めてそろそろ1年が経つが、社会の片隅で困窮を極めている女性たちがいる。「病や感染は平等」でも、その暮らしへの影響はけっして同じではない。新しい道を模索する彼女たちの選択を追った。最終回は住むところを失い、路上生活せざるをえない状況に陥った女性に実情をきいた(取材・文=樋田敦子) * * * * * * * ◆雇い止めで家賃が払えず路上生活に 2020年3月、反貧困ネットワークなど、貧困層を支援している42団体が連携して「新型コロナ災害緊急アクション」が結成された。事務局長の瀬戸大作さんのもとには、「所持金がない」など、SOSのメールや電話が連日ひっきりなしに入ってくる。ネットカフェを追い出され路上に出てきた相談者は行き場がなく、「死にたくなくても死んでしまう」と切羽詰まった状態だ。 「収入の激減や雇い止めで家賃や住宅ローンを払えない、会社の寮を追い出された、電気やガスを止められたといったケースが急増することは、緊急事態宣言前から予想されていました」 そこで「緊急ささえあい基金」を作り、公的支援が受けられるまで、基金から宿泊費や生活費を代わりに支払っている。基金に寄せられた寄付は、約9500万円。相談者からのSOSで、相談者が待つ場所に行き、緊急宿泊費と生活費を直接手渡しで給付する。総給付金額は3700万円、約2000件で、瀬戸さんが対応したケースだけでも200件以上を数える。 「4月にネットカフェが休業したため、20~40代の比較的若い非正規雇用者からの相談が中心です。その2割強が女性。家族から虐待を受けている人、家賃が払えず、ペットの犬と追い出された人もいました」
相談者は、基金から渡されたお金で一息ついた後は、瀬戸さんらNPOの支援者が同行して生活保護を申請。コロナ禍による申請件数の増加にともない、生活保護の受給希望者を行政の窓口で追い返す《水際作戦》をとる自治体も。それでも粘り強く交渉し、アパート転居まで見届ける。 「生存権は公に認められた権利です。フードバンクの食料を渡して、これで2週間食いつなげという乱暴な自治体もあり、現場はかなり混乱しています」 ◆貧困は自己責任ではない 「甘いものを食べるなんて、久しぶり」 田中公子さん(39歳・仮名)は、待ち合わせをしたファミレスでうれしそうにパンケーキを頼んだ。神奈川県の港近くの公園で、10日間ほど路上生活を送り、所持金50円になったところで支援につながった。 20年5月7日、田中さんは、それまで住んでいたシェアハウスから一方的に追い出された。4.2畳、光熱費込みで4万5800円の部屋は、突然鍵が替えられ入室できない状態に。収入が減り、1ヵ月分の家賃を滞納していたからだ。 田中さんは夫の精神的DVから逃れるため、19年に神奈川県にやってきた。携帯電話会社のコールセンターの契約社員として働き、初期費用の少ないシェアハウスで生活していた。ところが4月、勤務先に感染者が出て、事務所は閉鎖。従業員は2チームに分かれて、隔週勤務に。時給換算の給料は、減額のうえ遅配になった。そして4月分の家賃を滞納した。 「会社での感染も怖かった。家に荷物を置いたまま締め出され、財布と携帯だけ持って友人の家に滞在しましたが、それも3日が限度。そこから路上生活になりました」