少女の姿をした老婆…怪異専門家がゾッとした“海外で一番怖い幽霊”とは?
常識では説明しがたい、不思議な存在「幽霊」。 それはアメリカ発祥の「スレンダーマン」など、日本以外の国にも様々な姿形で存在する。 では海外の幽霊の中で、もっとも恐ろしい幽霊とは? 800種類以上の海外の幽霊や怪談などを研究した「世界現代怪異事典」(笠間書院)の著者で、怪異専門家である朝里樹さんに聞いた。 【BuzzFeed Japan / 吉田雄弥】
少女の姿をした老婆の幽霊
ーー「世界現代怪異事典」では、日本以外の世界各地の怪異を事典形式で詳しく紹介されています。 怪異を調べる中で、朝里さんがもっとも「怖い」と感じた幽霊はなんですか。 個人的にいちばん怖いなぁ…と感じたのが、あまり有名ではないんですけれど、アメリカに現れたとされる「少女の姿をした老婆」の幽霊ですね……。 アメリカって殺人鬼みたいな生身の変な奴が物理的に殴ってくる単純な話が多いんですけれど、これはアメリカでは珍しく、お話の完成度がとても高いんですよね。
怪談「ファンション・モンカール」
ーーーーーーーーーーーー アメリカに現れたという怪異。ファンション・モンカールは小人症の女性で、自分の年齢を偽り、少女として振舞いながら後見人と見せかけた共犯者の女性とともに窃盗を繰り返していた。 その方法はファンションが常に持ち歩いている中国人形のねじ込み式の頭を外し、人形の中に宝石を入れてアメリカに持ち帰るというものだった。 しかしそんな生活は、ファンションがマグダ・ハミルトンという女性と一人の男性を取り合ったことで終わりを告げる。マグダがファンションのことを警察に密告したことでその悪事が露見。ファンションは捕まって終身刑に処せられたのだ。 マグダはそれによって意中の男性を射止めたものの、六ヶ月で離婚することとなる。しかし相手が気前よく離婚条件を飲んだため、その資金を元に投資を行い、やがてマグダはニューヨークでも有数の資産家となっていた。 そんなある日、マグダの元に刑務所にいるはずのファンションが出現した。 その姿は少女のものではなく、年相応の腰の曲がったしわだらけの老婆であったという。しかしファンションが現れたのは、彼女が独房で首を吊って死んだ一週間後のことであった。 それを知ったマグダはファンションの亡霊から逃れるため、ヨーロッパ行きの船を予約した。だが彼女がその船に乗ることはなかった。 マグダは船出の前日、死体となってベッドの上に横たわることとなったのだ。 その死体は両目が飛び出し、口の両端には流れ出た血が乾いてこびりついていた。死因は自分の血を喉に詰まらせての窒息死で、喉の粘膜は何か大きなものをねじ込まれたように大きく裂けていた。 そして奇妙なことに、その粘膜には数本の頭髪のようなものが残っていた。その頭髪は、子ども用の中国人形の頭髪に使われていた。 そう、ファンションがいつも持ち歩いていた、あの中国人形の頭髪と同じものだったのだ。 「世界現代怪異事典」106ページより(朝里樹,笠間書院,2020) ーーーーーーーーーーーー ーーおおお……怖いですね……。 殺される場面を描写せずに、最後の中国人形でオチをつけるところがゾクッとしましたね。 世界の怪談を集めた実話集に収録されているので、実話として語られていたお話だと思うんですよね。 ーーアメリカと聞くと、ゾンビやヴァンパイアが出てくるような話を想像していましたが、人形が出てきたりして、ちょっと日本のホラーのような要素も感じました。 そうですね。湿っぽいホラーというか。そもそも人形が怖いですよね。人形ってこういう怪談では、喋るはずがないのに話しかけてきたり、恐怖の対象としてよく出てきます。 でもファンション・モンカールでは、あくまで「犯罪」を成功させる存在として出てくる。しかも子どもが持っていてもなにもおかしくない。恐怖を匂わせてないんですよね。 ーーたしかに人形のことはそこまで気にならなかったです。 どちらかというと子どものフリをした大人というところに怖さがあったと思います。 それが最後の最後で「人形の髪が数本見つかる」という描写で、人形自体を凶器として使ったことを想像させる。怪談における人形のイメージとは全然違う形で使われていて、とてもよくできた話だと思いました。