無症状の市民に幅広くPCR検査をやるのがマズいわけ
新型コロナウイルスは終息の気配を見せないまま、イベントの制限は緩和され、10月からGo Toトラベルは東京に拡大し、全世界からの入国も再開されようとしている。【BuzzFeed Japan Medical / 岩永直子】 日常生活に戻る動きが加速する一方、感染対策にも引き続き気が抜けない。そんな課題がある中、一部で訴えられ続けているのが無症状者への検査の拡大だ。 世田谷区は「いつでも・どこでも・何度でも」を掲げて、公費4億円をかけて区内の介護従事者らへの全員検査を打ち出し、ソフトバンクグループ子会社は、自治体や法人向けに1回2000円の格安唾液PCR検査の提供を始めるという。 無症状の人でも感染している可能性があるので、早めに発見して隔離し、無自覚に感染を広げるのを抑えるという理屈だが、感染症の専門家はこの主張に疑問を投げかける。 なぜ無症状者に幅広くPCR検査をすべきではないのか。 大東文化大学で感染症の危機管理を専門とする中島一敏教授に説明していただいた。
無症状者で陽性者のいる確率も少ない集団は?
政府に対策を助言している専門家組織「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は、どこまでをPCR検査の対象にすべきかを、以下の3つのカテゴリーに分けて議論しようと呼びかけている。 1.新型コロナらしい症状がある人 2.無症状だが、感染者と濃厚接触したり、集団感染が起きそうな環境に身を置いていたなど感染確率が高い場合 3.無症状で特に濃厚接触などしておらず感染確率が低い場合 1の新型コロナを疑う症状のある人はもちろん、速やかに検査すべきだということに異論を唱える人はいない。 2つ目の、無症状で感染していることが一定の確率で疑われる人も検査すべきではないかという話にはなっている。 問題は3つ目。無症状だし、感染している可能性も低い人だ。 「陽性である可能性が低い場合、積極的に検査をして陽性かどうか振り分けることでウイルスが広がることを防ぐことができるのか、感染予防効果はどうなのかということが焦点です」 「検査が必要な人の優先順位をどうつけるかということも重要ですが、検査結果が陽性だったら、陰性だったらどうするのかというその後の対応を考えることも大事です。検査することによって対策が進むのか、混乱を招くのかというところまで考える必要があります」 「不安を解消するために検査したくなる気持ちはよく理解できます。ただ、検査の先の出口は考えておいた方がいい。不安対策でやる検査がさらなる不安を生んだり、疑心暗鬼を生んだりすることもあります」