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【門間前日銀理事の経済診断】 コロナ後の世界 インフレよりデフレの警戒を

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二次、三次の大型補正も躊躇するな

 国際通貨基金(IMF)の見通しによれば、2020年の世界経済の成長率は-3%となる。リーマンショックの影響を受けた2009年(-0.1%)よりもはるかに厳しいマイナス成長だ。ただこれも、今年後半に新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かうという前提に基づいたものであり、収束しない場合はさらに3%下ぶれるとしている。  いずれにせよ、今後GDPがどの程度失われ、いつ経済が元に近い状態まで戻るのか、現時点で確かな根拠に基づき予測することは困難である。その段階でコロナ後の経済を想像することは、あまり意味がないかもしれない。  しかし、合理的期待形成のような学術概念を持ち出すまでもなく、人々はおぼろげにであっても何らかの将来イメージを持ち、それが現在の経済行動や政策思想にも影響を与える。その意味で考えておきたい一つの論点は、コロナ後の世界経済はよりインフレ的なのか、それともデフレ的なのかである。これには両論ある。  インフレ的とみる根拠の一つは、現在進行中の極めて拡張的な金融財政政策である。コロナ前から肥大化していた中央銀行のバランスシートはさらに大きく膨らみ、既に高水準にあった政府の債務残高は一段と上昇する。そこに経済の回復が加われば、インフレ圧力が高まる可能性が高いというわけだ。  筆者はこの見方には懐疑的である。中央銀行のバランスシート拡大とインフレの間にほとんど関係がないことは、過去10年あまりの内外の経験で証明済みである。また、そもそもコロナショックに伴う追加的な中銀バランスシートの拡大は、時限的な政策を反映したものが多い。それは財政支出についても同じであり、コロナ対策によって構造的な財政赤字が拡大しているわけではない。  コロナ後は供給サイドの制約が強まることでインフレ的になる、という見方もある。効率優先で張り巡らされてきたグローバル・サプライチェーンが、コロナ問題をきっかけに見直され、それにより供給体制が以前よりコスト高になってインフレ圧力が強まる、という見立てである。  これも可能性は低いと考えられる。確かに、いったん止まった生産活動が徐々に立ち上がっていく過程では、サプライチェーンの一部が順調には回復せず、品不足やボトルネックが発生する可能性はある。しかし、それはあくまでも部分的、一時的なものであろう。  また、仮にサプライチェーンの見直しが進むとしても、それによる追加的なコストを、企業は何らかの工夫で吸収しようと努めるはずだ。よほど強い需要回復を前提にしない限り、コストが上昇したからと言ってそれを簡単に価格転嫁できるわけではない。  以上のように、金融財政政策の面からも、サプライチェーンの面からも、コロナ後の世界がよりインフレ的なものになるというシナリオに、あまり高い蓋然性は感じられない。むしろ、コロナ前から問題となっていた低インフレ・低金利の傾向が、コロナ後は一段と強まる可能性の方が懸念される。主な理由は次の三つである。  第一に、コロナ後は企業のバランスシート調整が不可避であることから、設備投資などの企業支出がしばらく抑制されると予想される。現在多くの企業が資金繰り上の理由で借り入れを増やしているため、いずれキャッシュフローが改善し始めても、まずは債務の返済に充てられるのである。  第二に、当面大幅に積み上がる政府債務残高も、その後は財政再建圧力となって総需要を抑制する。この点、民間に豊富な金融資産が存在し金利は構造的に低いのだから、財政再建を急ぐ必要はない、という考え方にも一理ある。しかし、とくに日本の場合は、政府債務残高が他国と比べても既に圧倒的に高い。万が一金利が上昇した場合のリスクをこれ以上高めるべきではない、という主張が経済論壇の主流であり、コロナ後は財政の立て直しが重要な政策課題になることは疑う余地がない。  第三に、家計行動もより防衛的になる可能性が高い。コロナショックで所得の減少に見舞われた家計は、所得が回復し始めても貯蓄の復元を優先するだろう。とくに日本では、高齢化が加速する2020年代を迎え、将来不安がもともと強かった。上述した財政再建圧力は、その不安をさらに高める方向に作用する。人の集まりや移動を伴う消費行動が、どこまで戻るのかについても不確実性は大きい。  現代貨幣理論(MMT)が全面的に正しいとは思わないが、(1)財政は均衡させることを目的とするのではなく、完全雇用の実現など機能重視で運営すべきである、(2)財政拡大にとって最終的な制約となるのはインフレである、という二つの点には相応の説得性がある。  コロナショックで仕事や収入を奪われる人々に対し、十分なセーフティネットを提供することは、まさに財政が果たすべき重要な機能である。今般成立した2020年度の補正予算でそれが果たされたとは言い難い。かなり先まで考えてもインフレの懸念は小さく、心配するならデフレの方である、という点も踏まえれば、今は二次、三次の大型補正予算も躊躇すべきではないだろう。 ■門間 一夫(みずほ総合研究所 エグゼクティブエコノミスト) 1957年生。1981年東大経卒、日銀入行。調査統計局経済調査課長、調査統計局長、企画局長を経て、2012年から理事。2016年6月からみずほ総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。

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