なすに味をしみ込ませるには? 油っぽくさせない方法は? 極意をプロが教えます
プロよりおいしく作れる 野菜料理の“ちょっとしたコツ”
身近な野菜で、プロよりおいしい野菜料理を作ってみませんか? 銀座の日本料理店「六雁(むつかり)」の店主・榎園豊治(えのきぞの・とよはる)さんに、家庭だからこそ実践できる“ちょっとしたコツ”を教わります。
泥亀汁(どろがめじる)、揚げなすの柚子こしょう和え
今日は新なすを使った泥亀汁を紹介します。「どろがめじる」または「どんがめじる」と呼びます。師である滋賀県大津大谷月心寺の庵主様、村瀬明道尼(むらせ・みょうどうに)に習った滋賀県の郷土料理です。 味噌汁の中に格子状に包丁目を入れたなす、まわりにごまが浮かび、泥の中から亀が姿を現しているように見えることからそう呼ばれます。私は三つ葉の小口切りも加えます。三つ葉の風味で、初夏にふさわしい軽やかな味噌汁になります。 かつて滋賀県神崎(かんざき)郡にあった、近江商人発祥の地の一つとして知られる五個荘(ごかしょう)地区で夏場に作られた味噌汁です。なすには体の熱を外へ出すカリウム、疲労回復に効くアスパラギン酸が多く含まれていて、その上にごまをたっぷり加える泥亀汁は夏バテ防止に役立ちます。 亀の甲羅のように包丁目を入れることで味が染み込みやすくなり、使用人が多かった近江商人宅では簡単にできて栄養満点の料理として重宝されたのでしょう。 もう一品は、新なすを揚げて柚子こしょうを加えた酢醤油で和えます。油分が“加”わるのでボリュームが出ますが、しつこさを“除”くために電子レンジで加熱して、油の吸収を“減”らします。酢の酸味との相“乗”効果、柚子こしょうの刺激と風味を加えるのがポイントです。“加減乗除”がそろったところで、算木(さんぎ)文様の硯(すずり)形の器に盛りました(笑)。 算木とは、6~7世紀初めにかけて中国から伝来した計算の道具です。加減乗除の計算に用いられましたが、16世紀後半に中国からそろばんが伝来してからは、簡単な計算にはそろばんが、算木は複雑な高次方程式を解く際に用いられました。 料理もある意味、たしたり引いたり掛けたりして、簡単に割り切れない課題に挑みます。シンプルな道具である算木や、泥亀汁ならぬ「つるかめ算」が高等数学に使えるように、高価な調理機械などなくても、シンプルな道具でおいしい料理を作ることはできます。工夫次第です。 そのお役に立てればと真心でこの連載を続けています。計算ずくだろうって? はい、“慚愧(ざんき)”します、算木ゆえに(笑)。今日も野菜料理を楽しみましょう。