死球の長嶋茂雄に届いた異例のお見舞い?/週べ回顧1972年編
3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。
ひょっとすると三冠王?
今回は『1972年6月5日号』。定価は100円。 5月12日、大洋戦(川崎)の4回表、巨人・長嶋茂雄は坂井勝二から死球を受け、右手小指付け根を亀裂骨折。そのまま3日間休んだ。 実際には、この3日間のうち雨天中止が1試合、休養日が1試合で長嶋の欠場は14日の大洋戦のみだったが、いつもに比べ川崎球場の観客が1万人近く減ったとも言われ、大洋の営業関係者は暗い顔をしていた。 さらにぶつけた坂井に対し、 「なぜぶつけた。お前は球界の宝を殺すつもりか」 「ぶつけた後の謝り方が悪い」 と脅迫めいた電話や手紙が球団事務所、坂井の自宅に殺到する騒ぎとなった。 大洋・秋山登コーチは、 「あの近めの球は作戦的な武器の一つで、あそこを攻めておいて外角球で勝負するのが坂井の持ち味だ。あれがいけないというのであれば坂井がかわいそうだ」 と憤っていた。 ただ、大洋事務所はあまりの抗議の激しさもあって、巨人事務所に 「長嶋選手へのお見舞い」 として豪華な花と果物を差し入れた。 巨人の佐々木代表は、 「今まで頭に死球を当てた際は、球団同士でお見舞いを贈るという習慣があったが、頭以外の死球で見舞いをもらったのは初めてでしょう」 と驚いていた異例のプレゼントだ。 当の長嶋は16日の中日戦からいきなりスタメンで復帰。患部には目立たない肉色のばんそうこうを貼っていた。 「目立たないほうがいいんだ。お客さんから分かるようなのはダメだ。プロである以上、勝負の場に立ったら、ケガのことで同情されたくない。はっきり分かるような姿で出ていくのは失礼だからね」 また痛みについては、 「そりゃ痛いさ。豆腐の角にぶつかったのとは違うからね。だが、打席に立ったら痛いもクソもない。打って打って打ちまくるだけさ」 と話し、18日に5号、20日6号、さらに21日にはすべて2ランで3本塁打で9号とした。 「この勢いならホームラン王? ウフフ、三冠王と言ってほしいね。ひょっとするとひょっとするよ」 とコメントも絶好調だった。 では、またあした。 <次回に続く> 写真=BBM
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