SNBは50bpの大幅な利下げ
政策金利の引下げ
今回(12月)の声明文は、基調的なインフレ圧力が足元でさらに低下した点を指摘し、利下げはこうした動向を踏まえたものと説明している。また、インフレ率が中期的な物価安定の範囲に止まるのに必要な際には、金融政策を調整するとの考えも明記した。 一方で、前回(9月)の声明文にあった「今後(coming quarters)には更なる利下げ(further rate cuts)を行う」との表現は、今回は削除された。この点に関して、欧州市場では既に様々な見方が示されているが、シュレーゲル総裁が会見直後に行ったインタビューを踏まえると、先行きの不透明性が極めて高い中で柔軟性を確保することが趣旨であったことが推測される。 実際、同インタビューでは、今回の50bp利下げについて、利下げを後ずれさせることには意味がないとして、前倒しでの金融緩和という意図があった点を説明したほか、必要であれば、定例会合(筆者注:SNBの理事会は四半期に1回)の間でも政策変更を行う用意があるとした。 その上で、ポイントはSNBの政策金利の最低到達点であるが、現地報道によれば、シュレーゲル総裁は、質疑応答の中でマイナス金利の可能性は低下したと説明した。その意味では、政策金利の下げ余地は最大で50bpになり、現在の市場予想と概ね一致することになる。 もっとも、同様に現地報道によれば、シュレーゲル総裁は、今回の利下げでは不十分であれば更なる利下げを行うだけでなく、マイナス金利も選択肢となるとの考えも示した。その意味でも、上記のようにSNBとしては今後の政策に関する柔軟性の確保を重視していることが窺われる。
政策決定の意味合い
シュレーゲル総裁は中立金利の水準には言及していないが、欧州市場では0.5%~1.5%程度との見方があるだけに、今回の利下げによって政策金利は中立水準の下限付近まで低下したことになる。従って、ここから先の利下げは、いずれにしても金融緩和としての意味合いを有する。 今後の利下げは、先にみたCPIインフレ率の見通しを踏まえると当然かもしれないが、SNBの物価安定の定義は0~2%とかなり広めに設定されている点にも注意する必要がある。 その意味では、2025年のインフレ率が+0.3%になっても、一応は目標の範囲内であることになる、先にみたように、実質GDP成長率が1%台代前半であれば、失業率の上昇や設備稼働率の低下は小幅に止まるとすれば、潜在成長率近傍にあることを意味するので、その意味でも追加利下げを急ぐ必要はないともいえる。 こうしたインフレ目標の枠組みは、先行きの不透明性が高く、海外の状況如何ではインフレ率に上方リスクが残る下で、SNBが上記のように政策運営の柔軟性を確保しようとする上で一定のメリットをもたらしているものと思われる。 それでも、スイスのように対外開放度が高く、かつユーロ圏との経済関係が極めて強い国にとっては、米国の経済政策や欧州の政治情勢に加えて、ユーロ圏経済の影響も重視せざるを得ない。 実際、SNBとECBの今回の利下げ後に、スイスとユーロ圏との政策金利の差が2.5%になっても、ユーロ/スイス相場に下落圧力が残り、従って、輸入ディスインフレのリスクが強く残るとすれば、SNBは金融緩和バイアスを維持せざるを得ないことになる。 井上哲也(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 チーフシニア研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【井上哲也のReview on Central Banking】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
井上 哲也