“違和感”に耐えられない視聴者が増加? テレビドラマの過去と未来を守るために必要なこと
コロナ禍のテレビドラマ
成馬:第三章の2020年上半期から、コロナの話が中心になっていきますね。当時はコロナの影響でドラマが休止状態となり、プライムタイムで『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)のような昔のドラマが再放送される異常事態でした。 岡室:当時、私が館長を務めていた早稲田大学演劇博物館では、コロナによって中止や延期になった舞台芸術作品をどうやって残していくかという取り組みを一生懸命やっていた時期でした。「演劇史の空白にならないように」と考えて活動していたのですが、テレビに関しても、暗黒の時代にならないように、この時代にどんなことがおこなわれていたかということは、ちゃんと記録として残したいという気持ちでした。 成馬:多くのドラマが休止する中で『転・コウ・生』(NHK総合)や『世界は3で出来ている』(フジテレビ系)のようなユニークなドラマが次々と作られました。今振り返ると動きが早かったです。 岡室:当時はテレワークドラマとかソーシャルディスタンスドラマとかいろんな呼び方をされていましたけど、普通に面白かったというのはありますね。連載では取り上げてない作品でも岡田惠和さんの『2020年 五月の恋』(WOWOW)のようなドラマもあって。 成馬:劇中でコロナをどう描くのかに作家性が出てましたよね。たとえば岡田さんはコロナという名称を劇中で使わず、何かが背景で起きているという描き方をしていた。 岡室:坂元裕二さんの『リモートドラマ Living』(NHK総合)もそうでしたね。 成馬:逆に宮藤官九郎さんは、現実の固有名詞を劇中で積極的に使おうとする。 岡室:『JOKE~2022パニック配信!』(NHK総合)もコロナ禍だからこそ生まれたドラマでした。とにかくコロナ禍の渦中に坂元裕二さん、森下佳子さん、岡田惠和さん、水橋文美江さん、宮藤官九郎さんといった名だたる脚本家の方が素早く反応して書いたのが凄いなと思って。しかもどれも面白いんですよね。だから、お金をかけなくても面白い脚本があれば面白いドラマって作れるんだと思いました。ただ、『不要不急の銀河』(NHK総合)の脚本を担当した又吉直樹さんと対談した時に「リモートドラマだとスタッフとして関わる人がすごく限られるため、フリーのスタッフが生活できない」とおっしゃっていて。確かにそうだなって思ったんですね。だから『不要不急の銀河』では、コロナ対策を徹底してスタジオでの撮影に戻したそうで、それは凄いことだったと思います。 成馬:どの作品もどこか演劇的だと思いました。 岡室:場面転換がなく、限られた登場人物で限られた舞台での話となると、どうしてもシチュエーションドラマ的になるので、確かに演劇的ですよね。 成馬:Web会議アプリ「Zoom」を使って制作された三谷幸喜さん脚本の『12人の優しい日本人』がYouTube LIVEで生配信されていました。 岡室:私も観ました。リモート会議の映像と内容が凄く合ってましたよね。 成馬:本書コラムの第1回で、岡室さんが当時使用していたテレビがブラウン管のものだと書かれてましたが、テレビドラマの映像表現ってテレビの画角と画質の影響を強く受けていて、それが結果的に、時代の空気を反映していたんだと思うんです。だから、コロナ禍とともにリモートの分割された映像が現実の中に侵食してきた時に、これが今の時代の映像なんだと感じました。 岡室:そもそもテレビって「顔のメディア」として出てきた歴史がありますよね。映画と違い「顔のアップ」がすごく重視されていたのですが、当時のテレビのモニターが人間の頭部ぐらいの大きさだったこととリンクしていたと思うんです。私が現在使用しているテレビは65インチの薄型ですが、画面一杯に映ると顔が巨大で、クローズアップで映ると、ちょっとギョッとする。なので、Zoomの画面がテレビの中に出てきた時に、また顔のメディアに戻った感じがして面白かったんです。あとリモートの映像って補正されたりするじゃないですか。そのマスク的なところがテレビの画面をメタ的に表している感じもあって、いろんな意味で面白かったです。 成馬:マスクの見せ方も作品によって違いましたよね。コロナ禍を描いた作品でも俳優がマスクを付けないものもあれば、部分部分でマスクを付けているのもあって。俳優の顔が見えなくなることに対する不満と「ドラマを観ている時くらいコロナのことを忘れたい」という視聴者に対する配慮もあってか、マスクの処理に作り手が困っているのが伝わってきました。 岡室:連続ドラマでは『#リモラブ~普通の恋は邪道~』(日本テレビ系)がマスクの描写を最初に徹底してやっていました。一方で『俺の家の話』(TBS系)はコロナ禍だからこそ生まれた「マスクドラマ」と言える作品で、能面、プロレスのマスク、口と鼻を覆うマスクと様々なマスクが登場し、そこに意味が込められている。その後の作品にすごく影響を与えていると思います。コロナ禍に試行錯誤して作られたドラマの多くは苦し紛れだったと思うのですが、「あの時は苦しかったよね」みたいに語られるだけでは辛いという気持ちがあったので、「こんなに面白いものがこんな低予算で作れた」ということをちゃんと言っておきたいと思いました。