【F1特集】ピットストップのしくみ……最速1.82秒の速さを裏付ける“時計仕掛けの”チームワークとトレーニング
F1のタイヤを1本変えるには何人必要なのか? ピットインの際ドライバーは何をする必要があるのか? F1のピットストップでは何が起きているのかをご紹介しよう。 【ギャラリー】キミ・ライコネン列伝……20年のF1キャリアを写真と共に振り返る 現代のF1では、ピットボックスにマシンを止めてから4本のタイヤを交換し再びマシンが動き出すまでの時間は約3秒。これまでの世界最速記録は2019年ブラジルGPでレッドブルが記録した1.82秒と、まばたきをすれば見逃してしまうほどの速さだが、この早業は“偶然の産物”ではない。 ピットストップはF1でのレース戦略上、非常に重要な位置を占めているため、ピットストップを担当する各チームのメカニックは日々練習を重ねている。そこでは全ての作業を完璧に行なう必要があり、スピードのみならず安定性も求められる。では、完璧なピットストップを行なうには、具体的に何がカギとなるのだろうか? ■F1のピットストップは何人で行なわれる? F1には人数制限は設けられておらず、1度のピット作業に20人以上が配置されていることが多い。ふたつのマシンのどちらかを担当するメカニックから選抜されたメンバーが、固定でピットクルーを組み、決勝レース中のピットストップを行なっている。 誰かが体調を崩したり、何らかの理由によりグランプリに参加できなくなったりしない限り、ピットクルーのメンバーに変更はない。仮に欠員が出た場合はリザーブを投入することになり、その場合に備えてほとんどのチームメンバーは他のポジションを担当できるようにトレーニングを受けている。 シーズン開始前からピットクルーはファクトリー内の練習台で何千回もの練習を積み、チームワークに磨きをかけ、それぞれのポジションが作業を最適化していく。実際には、様々なポジションに就くメカニックたちがチーム内で競い合うプロセスでもあるのだ。 ■ピットクルーはどのような装備を使っているのか? フロントノーズからマシンを持ち上げるフロントジャッキとリヤエンドからマシンを持ち上げるリヤジャッキ。かつては単なる手押し車に過ぎなかったが、現在はそれすらも高性能化されている。ジャッキはハンドルが押し下げられるとマシンが持ち上がるようになっており、時間短縮のためにマシンを自動的にジャッキオフするクイック・リリース機構が備わっている。 また、ジャッキオフした後にスタートするマシンをクルーが妨げないよう、フロントジャッキには先端が左右に回るピボットが備わっている。その複雑さから、フロントジャッキはひとつあたり約25万ポンド(約2500万円)の費用がかかり、予備のために少なくとも2台は用意されている。 なお、フロントウイングが破損し、フロントジャッキを使用できない場合に備え、マシンを左右から持ち上げるサイド(センター)ジャッキも用意されている。 タイヤ(ホイール)を固定している中央のジングルナットを外したり締めたりするためのホイールガン(インパクトレンチ)もジャッキ同様に複雑だ。トルク4000Nm・10000rpm以上の速さで回転するホイールガンは、ホイールナットを緩める作業を行なうと、次の締める作業を迅速に行なえるように自動で回転方向が切り替わる。各チームのガレージには、予備も含めて24台が配備されており、ほとんどのチームがパフォーマンス向上のためにホイールガンに改造を施している。 以前クルーはタイヤ交換が終了するとそれぞれが挙手し、作業が完了したことを知らせていたが、現在のホイールガンには作業完了を知らせるボタンが付いている。問題がない際にはそのボタンを押し、何かしらの問題が発生した場合には頭の上で腕をクロスさせて作業が完了していないことを知らせている。