“バーチャルこそリアル” 既存ビジネスの当たり前を覆すZ世代。エリック教授と考える、新時代への“大人たち”の向き合い方とは
今の市場には大きな伸びしろがある。Z世代の消費行動に対して企業が知っておくべきこと
ーZ世代の消費行動を踏まえて、企業はどんな視点を持つべきなのでしょうか。 Z世代にとっては我々の世代が考えるバーチャルも実はリアルなのである、という考えを持たなければならないと思います。コロナ禍を経て様々なことがオンラインでもできるようになり、生成AIの台頭によってさらにバーチャルの世界にシフトしてきている。オンラインのコミュニケーションとリアルなコミュニケーションの比率やコンピュータとの対話レベルも格段に上がることによってバーチャルの方をリアルと感じる若者が出てきてもおかしくない状況になっている。 でも、Z世代より上の人たちは、手に触れられる生(なま)こそがリアルであると勘違いしがちです。その考えを捨ててリアルの再定義をしないと、Z世代と感覚が合わなくなってしまいます。 逆に、Z世代は手に触れられる生としてのリアルでしかできないことがあると気づいていないところがあるんです。そういう意味では、これからは世代間のコラボレーションが新しい価値観を生み出し、大きな意味を成すと思います。この大きな伸びしろがある今の市場を、僕はすごく魅力的に感じています。こんなに無垢な市場ってないですよ。 ーZ世代に向けては、どのような訴求方法が効果的でしょうか。 今の市場で勝っている企業は必ず1on1マーケティングをしています。「個の時代」の今、“百人百色”、同じ人は誰一人いません。 その背景にあるのが「情報」です。今は情報過多だと言われますが、実は逆で、情報が全然足りていないんですよ。なぜなら、スマートフォンやパソコンといった情報を得るための手段があり、いつでも調べられる安心感からか意外と自分で調べず、信頼性の低いネットの情報を、情報源を確かめることなく頼っている傾向がある。例えば、いいねが多くついている投稿や、ユーザーがそれまでに見たコンテンツによってアルゴリズムでレコメンドされる情報は信頼されやすい。それらの情報は意図的にコントロールされたもので、それを信じてしまうのは非常に危険です。見る情報はすでにコントロールされている。そういう意味では、昔のマスメディアのように同じ情報でコントロールされないので、今や情報は個人単位で分断されていると言えるでしょう。 分かりやすいのが「有名人」という概念です。SNSが台頭する前のマスメディアの時代では、「有名人」はみんな共通だったんです。テレビで良く見るような俳優や芸人こそが有名人でしたから。でも今は情報ソースが分断されているから、それぞれにとっての有名人が違うわけです。僕にとってはものすごい有名人でも、目の前にいる学生にとってはそうじゃないこともあるし、逆のこともあります。だからこそ、有名人を使えば情報が届くことはなく、今は1on1マーケティングでなければ、訴求したい相手に届けたい情報は届かないのです。 でも多くの企業はその逆で、まだマスで市場をおさえようとしている。この旧来のマーケティング方式は変えるべきだと思います。正直、1on1マーケティングは非効率的です。でも、非効率的なことの蓄積が効率に結びついていくのが今のマーケットの特徴なんです。まずはとことん1on1をして、その集積として一つ固まった施策をするべきだと思います。市場は1on1の集積から作られるものであるとも言えるのです。 ーSNSの影響が大きいZ世代にとって、SNSを活用した施策も効果的でしょうか。 SNS自体は情報を発信する手法として良いと思いますが、薄利多売になってしまうことは理解しておくべきでしょう。SNSにおいては、購買意欲を左右するのが、いいねやビューの数、画像のインパクトなどモノと関係ない部分なんですね。だから、商品に対する思い入れが小さくてなかなか単価を上げられないんです。 また、SNSを駆使している多くの企業は、トレンドやビューの数を見てほかのバズに乗っかっているだけで、自分でトレンドを作り出していません。そうやってフォロワー側の感覚でいる限りは、その市場の中で値段を下げて沢山売っていくしかなくなってしまいます。 さらに、そうしているうちに安いモノが正しくなってしまうんですよ。だけど、そこへESGの考え方が入ってくると、安いからと言って環境には最大限の配慮をしないとモノが売れない。ESGには投資が必要ですので、薄利多売ではやっていけない。価格を下げることを優先してしまうと、自分で自分の首を絞めていくことになるリスクがあると思います。