21年ぶり大関同士の相星で激突した「琴櫻」と「豊昇龍」、躍進を支えたそれぞれの努力とは? 不振「大の里」はまだこれから【音羽山親方の九州場所総括】
右四つからの下手投げを得意とするなど、現役時代は「玄人好み」の相撲で活躍した71代横綱・鶴竜。昨年12月、東京都墨田区に音羽山部屋を創設し、4月に霧島(元大関)が陸奥部屋から転籍するなど、相撲部屋らしい雰囲気になってきている。24日に千秋楽を迎えた九州場所中、NHK大相撲中継で優しくも的確な解説を務めて好評を博した音羽山親方に、九州場所の土俵を改めて振り返ってもらった。【ノンフィクションライター/武田葉月】 【写真】大きすぎ…! 優勝・琴櫻が掲げた「鯛」は8キロ超の大物だった
今場所を盛り上げた2人の大関
――今場所は、琴櫻関、豊昇龍関の2人の大関が、前半戦から好調。特に、豊昇龍関は初日から6連勝のあと1敗を喫したものの、9日目に勝ち越し。一方の琴櫻関も、3日目に王鵬関に敗れたのみで、1敗をキープという展開でした。 音羽山親方:先場所は「大関取り」の関脇・大の里に話題をさらわれた感があって、成績も揃って8勝(7敗)止まり。豊昇龍のほうは、体調不良などもあったようですが、「物足りなさ」を感じたのは、私だけではないと思います。 この九州場所は、横綱・照ノ富士が初日から休場しました。そんな状況の中、この2人の大関のがんばりで、若元春(小結)、若隆景、阿炎、隆の勝らの幕内上位の力士が「大関になんとか付いていこう」と必死に戦ったことも、今場所が盛り上がった原因でしょうね!
相星・結びでの優勝争いは21年ぶり
――千秋楽は琴櫻関、豊昇龍関の大関同士が相星で、さらに結びで優勝を争うという21年ぶりの展開になりました。その結果、琴櫻関の初優勝が決まりましたが、今場所、琴櫻関が「変化」した点はどのあたりだったのでしょうか? 音羽山親方:琴櫻はおじいさんが横綱(元琴櫻=先代師匠) で、お父さんが師匠の佐渡ヶ嶽親方(元関脇・琴ノ若)という「相撲一家」に生まれています。少年時代から相撲に親しんできて、高校時代くらいからは、周囲の人たちから「勝たなきゃならないぞ!」と日ごろから言い続けられてきたのだと思います。 今年初場所後に大関に昇進して、おじいさんの四股名を継いだあたりから、そうした声はますます大きくなっていたと思います。 この「総括」で私がよく話題にしている通り、場所の後半戦に入った琴櫻は、優勝の目がなくなってくると力が抜けてしまうところがあって、これまで優勝に手を届かなかった。本人は、そういう悔しさは十分わかっているし、精神的にキツかったと思います。ですが、そうした「経験」が今場所は生きた。琴櫻は「己に勝つ」ことができたんです。今場所は彼にとって、成長の場所になったと言えるでしょうね。