「自分がワクワクする方へ」東京でのキャリアを手放し、長野県小海町で新たな挑戦をする女性が「住むのはどこでもいい」と語る理由
心理学科から新卒でマーケティングリサーチの会社へ
―前職では具体的にどのようなお仕事をされていたのでしょうか たとえばあるメーカーで新商品を開発したいとなったときに、流行や求められているものを知る必要が出てきます。そこで、蓄積された自社データをもとに市場分析をしたり、アンケート調査で消費者が求めていることを読み解いて、メーカーに報告していました。 わたしはフロントに立ってお客さんとやり取りするポジションで、課題をヒアリングしながら、それに対してリサーチの企画を作って提案することが主な仕事でした。 ―前職での経験は、現在の活動にどのように役立っていますか マーケティングの知識というよりは、考え方が役立っています。前職では、目の前の事象に捉われずに根本的な問題を突き詰めて原因と対策を考える癖がつきました。マーケティングの根本には人の思いや欲望、困りごとがあると思うんですよ。何かを買おうと決断するとき、必ずその裏には人の心が動いています。 どんな仕事や職種でも、人の心や感情にも目を向けることで本質的な問題を考えられるようになると思います。事業の運営や町の問題を解決するときにも、関係者の思いを汲むうえで役立っています。 それに加えて、データを見て客観的に考えられるようになったのはすごく大きかったです。人の心や感情に目を向けると、相手を思いやりすぎて感情的な判断をしてしまうこともあるかもしれません。ですが、客観的な事実に基づいて判断を下す経験を通じ、相手の状況を理解しながら最適な解決策を考えることができるようになりました。前職で学んだ、論理的思考と感情とのバランスを上手くとる方法は、小海町での仕事や暮らしにも活きています。それまでは他人に際限なく寄り添ってしまい、自分が疲れたり、当初の目的を見失ったりすることもありました。しかし、人とのほどよい距離感をつかめるようになった今では、スムーズに物事を進められています。
泥臭い活動で得た、町の中での「話を聞いてくれるいい人」のポジション
―都市部から移住して感じたカルチャーギャップはありますか 移住する前は東京でバリバリ働いていたわけですが、小海町でもその軸でやってしまうと、町の人からしてみれば「なんで?」とか「偉そう」とか思われることも多いのかなと。なので、最初の1年は人や町を知るところにフォーカスをあてて、町中の人と話しまくるのを意識的に取り組みました。そういった地道な活動が実を結んで、それまであった移住者への固定観念がなくなり、「ちゃんと話を聞いてくれるいい人」のポジションをつかめたのかなと思っています。 ―東京と小海町では、仕事を進めるうえで大切にするべき軸が異なっていた? 仕事を進めるうえで、前職では初めにゴールを設定してから、それを達成するための最適な手段を考えて……というふうにやっていました。しかし、小海町ではゴールや手段をどうするかということに加えて、人間関係も重要視する必要があります。小さな田舎町では、密なコミュニティの中で互いに助け合うことで、暮らしも仕事もうまく回っている場合が多いんです。 最初は「マーケティングの『マ』の字もないじゃん!」と衝撃を受けましたが、たとえ前職では良いとされていたことでも、町にとって必ずしもそうとは限りません。町のやり方を尊重しながら、変えられるところは変えていきたいなと思うようになりました。 ―大きなカルチャーギャップにも感じられそうです 移住前から、田舎には特有の文化があるとうっすら知ってはいたけれども、あまり具体的に思い描けてはいなかったですね。 でも、それを無視したらやっぱり町ではやっていけません。移住した当初はせっかくだからマーケティングの知識を使って事業を推進しようと意気込んでいましたが、きれいごとだけでなく泥臭くやっていくことも重要なんだと途中で気づきました。