10年後、自動車の価格は5分の1に? 日本電産会長の発言が誇張ではないワケ
カリスマ経営者として知られる日本電産の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)が、「2030年に自動車の価格は現在の5分の1程度になる」と発言したことが話題となっています。本当に自動車の価格は5分の1に下がるのでしょうか。また価格が下がる理由は何でしょうか。
日本電産は日本を代表する部品メーカーのひとつであり、コロナ危機にもかかわらず増益を維持するなど業績は絶好調です。まさに日本のモノ作りを代表する企業といってよいでしょう。こうしたモノ作りの本丸とも言える企業のトップから出てきた発言ですから、多くの人が驚きを隠せませんでした。 価格が5分の1になる理由は、説明するまでもありませんが、電気自動車(EV)へのシフトが急ピッチで進んでおり、価格破壊が予想されているからです。電気自動車はガソリンや軽油で動く内燃機関(いわゆるガソリン・エンジンやディーゼル・エンジン)ではなく、モーターとバッテリーで駆動します。モーターとバッテリーは汎用品ですから、需要さえあれば、規格化された製品を大量生産することで、大幅なコスト・ダウンが見込めます。加えてEVは、重量のあるトランスミッション(変速機)も不要ですし、ラジエーターなどの冷却系統、マフラーなどの排気系統も必要ありません。EVの部品点数は従来型ガソリン車の10分の1以下になるとさえ言われています。しかもEVの基幹部品であるバッテリーとモーターはコモディティ化(どのメーカーが作っても大差がなくなること)が進みやすく、パソコンのような急激な価格低下をもたらす可能性があります(実際、車載用のバッテリーはもはや中国メーカーの独壇場となりつつあります)。 一連の技術的な状況を冷静に分析すれば、永守氏ほどの先見性がなくても、自動車の価格が大幅に下がることは十分に予想できます。コロナ危機によって変化のスピードが加速しており、EVシフトは従来よりも前倒しになるとの予想も出ています。製造業を代表する企業トップが5分の1と具体的に発言しているわけですから、この数字は決して誇張ではないと考えるべきでしょう。 もしこの数字が現実化すると、自動車メーカーの経営は大打撃を受けます。製造業は製造コストと売上高の差分(粗利益)の中から人件費などを捻出しますが、仮に売上高・製造コストとも5分の1になったとすると粗利益も5分の1になります。自動車の製造に特化している限り、企業規模の大幅な縮小は避けられません。自動運転システムとITサービスを組み合わせた新しいサービスなどを模索しない限り、自動車メーカーが今の規模を維持することは困難でしょう。 (The Capital Tribune Japan)