「人は絶対ミスるけど、それでも人生は続くし、また笑えるようになる」──漫画家・鳥飼茜が青年誌で性を描く理由 #性のギモン
人はミスをするもの。それでも人生は続く
7月から連載開始した『バッドベイビーは泣かない』は、女子高生が怪しい業者から経口中絶薬を買う場面で幕を開ける。歌舞伎町で置き引きまがいのことをして金を手に入れようとする彼女と、彼女を助けようとする大人4人。重いテーマだが、テイストはポップなラブコメだ。 「私の漫画って、『暗い』とか『えぐる』と言われることが多いんです。今回は、全然違うテイストにしたいと思いました。他人の目を気にせず、好きなことを好きなように描こうと。気楽な会話劇をやりたくて、最初のネームを切ったんです。そのときは中絶や妊娠というテーマは出てきていませんでした」 編集者と打ち合わせを重ねるうちに、「鳥飼さんのなかに、妊娠や中絶というテーマがあるんじゃないですか? だったらそれを真ん中に据えたほうが、物語に求心力が生まれるのでは」と言われた。 「中絶って命を絶つことだから、嫌悪感を持つのは当然だし、一般的にいいことだとは言えない。一方で、そうせざるを得ない人のために選択肢として残しておくべき、というのも正論。だから、中絶について語るのはめちゃめちゃ難しいんですけど、経験したことのない人にとって、切羽詰まったときに中絶という手段があることのありがたさは、相当想像力を働かせないと共感できないと思います」 10代のころ、生理が来ないことは恐怖だった。相談をしても相手の男性が心から支えになることはなかった。自分1人の心身にのしかかる不安と将来への絶望感は、いまだに忘れることはない。 約20年前の当時、望まない妊娠をした女性が産まない決断をした場合、選択肢は手術しかなかった。それなのに、麻酔のリスクも術後のケアも教わらない。鳥飼さんは、大人になってから、フランスでは経口薬で中絶ができることをフランスの漫画で知って驚いたという。 「それを見るまで(薬で中絶できると)聞いたことがなくて、『そんなことが? いつから? 30年前から!?』って。もちろん中絶せずに済むのが一番だけど、つらい決断の先にある負担は少ないほうが絶対にいい。自分の人生を守るために、選べる未来は多いほうがいい。かつての私のように不安や絶望のさなかにいる人たちにとって、世の中は少しでも生きやすくなっているだろうかと考えると、私にもまだ描けることがあるって。いろんな意見が対立するなかで、中絶は女性の権利だって、どのくらい言えるかなと思って」