ザックの采配ミスを救った本田のメンタル
日本が3対0で快勝した2001年8月15日の一戦を最後にオーストラリアには、これで7試合連続で90分間での白星を収めていない。世界一を目指している過程で、アジアのライバルへの苦手意識を断ち切れなかった悔しさがヒーローを寡黙にさせたのか。 5大会連続5度目のW杯出場。しかも、苦しみながらもホームの大観衆の前で初めて決めた喜びも、本田にとっては通過点だ。その頼もしい背中が語らんとするメッセージを、香川が代弁する。 「世界で戦っていくためには、圭祐さんのような存在が2人、3人と出てこないと。W杯まであと1年。もっと、もっと個のレベルを上げてかないといけない」 成田空港からチームに合流した直後に、本田は盟友の長友とランチを取りながらW杯制覇という目標を確認し合っている。長友がその会話の様子を明かす。 「僕らがやらないと誰が代表を引っ張るんだ、という気持ちでね。僕らにはそういう使命がある。他の人が聞けば『お前ら、何を話しているんだ』と笑われるかもしれない。熱すぎるんじゃないと言われるかもしれない。でも、笑われても関係ない。僕らは絶対にブレませんから」 日本時間の4日午後10時にキックオフされたオマーン対イラクは、オマーンが勝利を収めた。0対1のままオーストラリアに屈してもW杯切符獲得が決まったことになるが、結果オーライでまとめてしまっては次につながるものは何もない。負ければ3月のヨルダン戦から3連敗となり、采配で迷走ぶりを露呈したザッケローニ監督の進退を問う声も出ていたかもしれない。W杯出場を結果オーライでまとめてしまっては、次につながるものは何もない。 強烈なカリスマ性で代表の危機を救った男がトップ下に復活したことで、ゴール前に時間ができ、スペースが生まれた。得点こそなかったが、本田のキープ力と突破力が、攻撃システムを活性化させ、ゴールへ向かういくつかのカタチとアイデアは見えた。しかし、それは、まだ“見えた”という段階。カタチがゴールという結果につながるには、これから気の遠くなるような作業が必要になってくる。 また、ザッケローニ監督が墓穴を堀ったにせよ、失点のパターンや守備システムにも危うさが見られた。そもそも、前回の南アフリカ大会でベスト16進出を成し遂げたチームの武器は、守備の堅実性だったはずだ。そのベースもレベルアップさせなければ、世界など語れないだろう。 幸いにもW杯出場を決めたことで、11日のイラク戦ではコンフェデ杯へ向けてのテストができる。そこでは最低限、サイドチェンジからタテに速いパスを入れ、チャンスを作るという結成当初から標榜してきた攻撃パターンでゴールを奪っておきたい。 「皆さんはあまり期待していないかもしれないけど、コンフェデで優勝するつもりでいるので」 場内インタビューの最後で、本田はこうも言った。ザックジャパンの精神支柱は、どんな根拠を持ってそんなコメントを発したのだろうか。本田と長友はランチミーティングで、具体的な優勝プランをどのように議論していたのだろうか。 (文責・藤江直人/論スポ)