65歳以上の日常生活での事故による救急搬送、8割が転倒 骨折は寿命を左右する【アンチエイジング最前線】
人はなぜ老いるのか――。その謎が近年、解き明かされつつあります。アンチエイジングの研究は、老化の原因を解明し、健康に過ごせる寿命を延ばすにはどうすればいいのかを探求しています。連載では、研究の最前線や、研究に基づいた、日常生活で取り組める具体的な方法を紹介します。 介護が必要になる大きな原因の一つが骨折です。骨折は、健康寿命が短くなる主だった要因にもなっています。骨折を防ぐには、骨が弱くなった状態の「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」にならないようにすることが大切です。NTT東日本関東病院の大江隆史院長(整形外科)に、高齢者の骨折の実態などについて聞きました。
女性の要介護になる原因 認知症の次は骨折・転倒
内閣府の「高齢社会白書」(2021年版)によると、骨折・転倒は、65歳以上の人が介護が必要になる原因のうち、認知症や脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱についで4番目に多くなっています。女性に限ってみると、認知症(19.9%)についで骨折・転倒(16.5%)が2番目に多い原因です。 交通事故などで骨に大きな衝撃が加われば、年齢にかかわらず骨折が起きます。しかし、高齢になると、大きな衝撃が加わらなくても骨が折れてしまう人が増えてきます。
軽い衝撃でも骨折 平らな場所で転倒して死亡する高齢者が多い
屋内で立った姿勢から転ぶ、あるいは重いものを持ち上げようとしただけで、太ももや背中の骨が骨折してしまうことがあります。こういった軽い衝撃だけで骨が折れることを「脆弱(ぜいじゃく)性骨折」と呼び、高齢化に伴って増えていきます。 東京消防庁によると、2015~19年の5年間に、日常生活における事故(交通事故を除く)により救急搬送された65歳以上の約82%は転倒が原因でした。
2020年の人口動態統計調査によると、転倒・転落・墜落で亡くなった人の9割以上が65歳以上で、8851人でした。内訳をみると、平らな場所でつまずいたり、よろめいたりして転んだ人が8割以上を占めていました。
背骨の骨折は年に48万人 太ももの付け根は22万人
骨粗鬆症財団のリーフレットによると、50歳以上の男性の5人に1人、女性の3人に1人が骨折をしているそうです。 脆弱性骨折の起こりやすい部位は、背中の骨や太ももの骨、手首や腕の骨です。とくに多いのが腰の上から背中にかけての骨(脊椎〈せきつい〉椎体)や、太ももの骨の付け根の部分(大腿(だいたい)骨近位部)の骨折です。 鳥取大学の研究チームによると、鳥取県内で実施した調査結果と全国の人口動態調査を使った推計では、2020年の患者数は脊椎椎体骨折が約48万9千人、大腿骨近位部骨折が約22万6千人とみられました。