9年間不登校ののち、東京藝術大学へ。27歳の作曲家・ 内田拓海さん「小・中学校に1日も登校しなかった私は、音楽に居場所を見つけた」
出版をきっかけに親子関係が動き出す
■「今までごめんね」母は泣いて謝った ――出版後のご家族の反響はいかがでしたか。 内田さん:母には、ちょっともったいぶって献本が家に届いても本の発売日まで渡さなかったんです。「どんな本なの?」「読めば僕が小さい頃に思っていたことが分かるよ」とだけやり取りしました。 母は、私が外出中に読んだようで、帰宅した私の前に神妙な面持ちで立ち、ぎゅっと私を抱きしめて、「分かってあげられなくてごめんね」と泣きながら言ったんです。 ――内田さんも涙を? 内田さん:「どうしたの? 急に? 今さら? 何を? 気にしてないよ?」 いろんな感情が沸き上がって、泣くよりも、感情が固まってしまいました。小さい頃、父親と揉めるとよく大泣きしたのですが、そのたびに自分が弱くなるようで、だんだんと泣くのを我慢するようになったせいもあるかもしれません。 でも、子ども時代の自分にタイムスリップして抱きしめられたような気持ちになりました。謝ってほしかったわけではありませんが、あの時、長い間、親子にあった溝のようなものが少し埋まった気がしました。 ――お父さまは何とおっしゃっていましたか? 内田さん:ものすごく喜んでいます。親戚の皆さんにも献本したのですが、父が「本家にもプレゼントしたいからあと4冊くらいくれ」って(笑)。 ――あらためて、ご両親への今の思いを聞かせてください。 内田さん:よく「親に感謝だね」と言われるのですが、それを直接受け止めるのは難しいという気持ちがあります。両親との間に辛い経験もありますから。でも、やはり、自分にとって大切な存在であることには変わりありません。私は愛してるよ、大切に思ってるよと言葉で伝えるのが苦手なので、いろいろな仕事をして経済的に還元してあげたいなと思っています。 ■1%でも共感してもらえたら ――それは嬉しいですね。周りの方はいかがですか。 内田さん:親戚や高校時代の恩師、先輩方など多くの方が本を購入してくださり、塾の先生は「1日で読んだわよ」と喜んでくださいました。先日、母校の横浜修悠館高校にサインをしにうかがう機会があったのですが、みなさんからの「勇気をもらいました」の言葉が本当に嬉しかったですね。 面白いのが、出版という形で世の中に出ることで、今まで身近な人たちだけに伝わっていたことが、思っていた以上に多くの方に広がっていくことです。私のコンサートに来てくださった方だけではなく、直接お会いしたことがない方からもX(旧:Twitter)などで感想をいただくなど、さまざまな形で思いが伝わっていくのを感じています。 本には、私の失敗や恥ずかしい部分もさらけ出して書きました。そうした体験や言葉が、たとえ1%でも誰かの共感を呼び、その方の人生に小さな役割を果たせたなら、書き手としてこれ以上の喜びはありません。