恐竜の体の色の復元は可能か(下) 最新技術を用いた研究が導いた光明
この化石骨格標本においてもう一つ非常に興味深い事実は、尻尾の上の部分にみられる多数の細かなひも状の存在だ。いわゆる「フィラメント」と呼ばれるもので、哺乳類の毛や鳥類の羽毛とは、進化上別のものと現在考えられているようだ。今のところこのプシッタコサウルスを含む角竜の一部と(鳥類を除く)獣脚類恐竜の幾つかの種において確認されている(Barrett等2015参照)。 こうした体の表面が保存されている化石標本をもとに、ヴィンサー博士は実際どのようにして生存時のカラー復元を行うのだろうか? 簡潔に言うとまず先述したLIFという技術を用いて撮影された写真イメージの詳細を分析する。そしてこうした皮膚などの表面をSEMという特殊な電子顕微鏡を使い、より微細な「色素の粒」(ピグメントとメラノソーム)の大きさをチェックする。 こうした色素の粒(顔料)は電子顕微鏡でかろうじて観察できるほど微小だ(中生代のものが化石として保存されていること自体驚きだ。)こうした色素の粒のサイズ(拡張具合)と生存時の色には直接相関関係がある事実が、現生鳥類の羽等に知られている。より大きな粒はダーク系の色、そしてより細かなものは明るい色というパターンがあるそうだ。ヴィンサー博士は一連の現生の鳥の羽のデータにいち早く着目し、化石標本に応用したパイオニアの一人と言えるだろう。
さて、先述のLIFの技法と電子顕微鏡を用いて角竜の祖先であるプシッタコサウルスの色を復元したのがイラスト(イメージ3参照)だ 。全体に緑がかった特徴にまず気づく。腹側のほうが背中側よりすこし明るいみたいだ。首から胸の辺りに黒い斑点のようなものも見られる。頭と顔の辺りに少し明るい色が混じっているのも興味深い。 体の全ての皮膚が保存されていたわけではないので、失われていた部分は「ある程度の推測」も必要となるのだろう。しかし一化石研究者から言わしてもらうと、直接化石からのデータをもとにここまで詳細に体の色を復元していることは驚嘆に値する。「約1億年前に死んだ生物の復活」といえば大げさだろうか。それまでに知られていない新たな太古の生物のイメージに、私は非常に惹きつけられものを感じる。