恐竜の体の色の復元は可能か(下) 最新技術を用いた研究が導いた光明
実は非常に稀だが、中生代の恐竜の皮膚の化石はかなり以前から知られていた。有名なものとして20世紀初頭にカナダ・アルバータ州で化石ハンター・スタンバーグ一家によって発見された、「ミイラ化した」ハドロサウルスの全身骨格がある。現在ニューヨーク市のアメリカ自然史博物館に展示してあるこの標本は、一見の価値がある(機会のある方には是非お勧めしたい)。 かなり大部分の背中の皮膚、そして筋肉のような部分(?)が一目瞭然に分かる。皮膚の表面は、現生のトカゲや蛇のようなウロコに覆われていたようだ。中国からは最近多数の羽毛を供えた獣脚恐竜の骨格も発見されている。恐竜の体の色を知るためには、まずこうした体の表面が保存されている非常に希少な化石標本が必要となる。ヴィンサー博士いわく、一連の研究で一番困難な点は「色復元に可能性のある化石標本にアクセスすること」だそうだ。
閑話休題。ヴィンサー博士は今回、幾つかこの研究の過程において準備・製作したイメージを気前よく提供してくれた。まず冒頭にあるこのプシッタコサウルスの標本の写真を見ていただきたい(イメージ1参照)。中国で見つかったこの標本は保存状態が非常に優れている事がわかる。全身骨格がつながっていて、細かな手足の指の骨などもきれいに残っている。尻尾の先の部分を除いてほぼ全ての骨があるようだ。少しでも化石採集を経験したことのある方なら、思わずため息がもれそうなほど見事な標本だ。 更に注目すべきは足の付け根や背中のあたりに多数見える黒い斑点のようなものだ(イメージ2参照)。これが化石化した角竜の皮膚だ。先述したように爬虫類の体の表面は基本的にウロコで覆われている。現生の蛇やトカゲを思い出していただきたい。脚の部分は細かなウロコが整然と並んでいるのが拡大写真でよく分かる。ウロコの大きさは体の部位によってやや異なるそうだ。より黒ずんだ部位はウロコがより細かい(小さい)と、今回の論文に描写されていた。