「湘南爆走族」から33年、相変わらずの「織田裕二」、「江口洋介」俳優人生の分岐点
〈脚本家としてまだ駆け出しだった頃、こんなことがあった。あるドラマの最終回、ラストシーンの撮影現場から連絡が入った。主演俳優が死にたがっているので、急遽(きゅうきょ)ホンを変えたい、とプロデューサー。(中略)その俳優さんが全身全霊を込めて役に入り込んでいることも分かっていた。/そこで、死ぬのは構わないので、どういう形で最期を迎えるかは、僕に考えさせて欲しいとお願いした。現場では既に撮影準備が整い、主演俳優は死ぬ気満々でいるらしい……〉(16年10月27日付「朝日新聞」) 作品に打ち込むのは結構なことだが……、 「こだわりが強いんでしょうね。彼のモノマネをしたお笑い芸人の山本高広(45)が、事務所から抗議を受けて封印されたことは有名ですし、カッコ良く見せたいし、カッコ悪くなることが嫌いなんでしょう。ですから、脇に回ることもない。そして江口も、かつては主役ばかりでした。結局、特に下積みもなく、トレンディドラマで人気が出た“アイドル俳優”みたいなまま来てしまった。年を重ねたように思えません。考えてみれば2人とも、唐沢寿明のようにアクションができるわけでもないし、何が特徴かと聞かれたら答えにくい。どこかで止まっている感じなんです」 だが江口は近年、ドラマや映画で脇役をこなすようになってきた。「七人の秘書」はもちろん、「コンフィデンスマンJP」(18年/フジ)では悪役、しかも最終的にだまされるカッコ悪い役だ。 「転機は12年の映画『はやぶさ 遥かなる帰還』(瀧本智行監督)ではないかという声があります。主演は渡辺謙(61)でした。この映画の企画が東映の坂上順さん。『鉄道員(ぽっぽや)』や『野生の証明』、『新幹線大爆破』など高倉健さん(1931~2014)の作品に多く関わった名プロデューサーですが、『はやぶさ』では、江口を脇で使おうとして苦労したと語っていました」 〈「相当しつこく粘りました。主役やる人だからね。どうやっても謙さんのもの(映画)になるだろうって思いがあるだろうし」。最後には江口のデビュー作「湘南爆走族」(87年)をプロデュースしたことを持ち出し、「面倒みただろ。おじいちゃんを助けてくれよ」と泣き落とした〉(12年2月7日付「サンケイスポーツ」) 「実を言うと、坂上さんは『湘爆』のプロデューサーでもあったわけです。デビュー作から知っている人に頼まれては拒めなかったでしょうね。この頃から江口は、脇にも出るようになっています」 坂上氏は織田を使おうとは思わなかったのだろうか。 「織田とも仕事をしたことがあります。03年に日中韓の合作映画『T.R.Y.』(大森一樹監督)で、製作費11億円という大作の主演が彼でした。結局、現場では誰が監督か分からない状態となってしまい、大森監督は引退を考えたとまで言われる曰く付きの作品となってしまいました」 坂上氏は昨年亡くなったので、その後、織田と組もうとしたかは確認のしようもない。 「江口は脇に回れたことで、良かったと思います。悪役もできるようになったことで、役者としてずいぶん幅が拡がりました。CMではピシッとスーツを着て、格好いいところも見せていますしね。生活感があるので、CMの仕事は安泰だと思います。一方、織田はいつまで今のままでいくつもりなのか、むしろ興味深いですね。保険のCMでも、なんだかずっと“青島君”を演じ続けているようです。ひょっとすると、昔と全く変わらない田村正和(77)を狙っているのかもしれませんが」 週刊新潮WEB取材班 2020年11月19日 掲載
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