「生成AIで仕事がなくなる」ってホント?未来を過度に恐れる必要はない理由
今も昔も、仕事の未来に関する議論は尽きない。就活に臨む世代にとっては、これから数十年にわたって自身のキャリアをどう築くかが問題になる。キャリアの中盤や終盤にさしかかっている世代では、キャリアプランの再検討や、引退の日までの逃げ切りに関心を寄せる人もいるだろう。近年、AI(人工知能)、特に生成AIが台頭してきたこともあり、仕事の未来への注目度は一層高まっているように感じられる。仕事の未来と生成AIの関係をどのように捉えたらよいだろうか。 【図】生成AIで生産性が向上すると、どれくらい省力化できるか (今井 昭仁:パーソル総合研究所 研究員) まず、仕事の未来から見てみよう。パーソル総合研究所と中央大学の共同研究「労働市場の未来推計2035」では、2035年時点の職業別の労働需給を推計している(図表1)。ここからわかるように、全ての職業で労働供給が労働需要を下回っている。つまり、労働力が足りない見込みだ。 【図表1】 2035年の職業別の労働需要、労働供給、労働力不足 最も労働力が不足する見込みなのは、「事務従事者」で、1日当たり365万時間にのぼる。働き手に換算すると、79万人に相当する。これに続くのが「専門的・技術的職業従事者」だ。他方、労働力不足が小さいと見込まれているのは、「農林漁業従事者」や「保安職業従事者」だ。 多少の例外はあるものの、推計結果の特徴を大まかに表現するならば、労働力不足の見通しはホワイトカラーで大きく、ブルーカラーで小さいと言えるだろう。 ただし、この結果の解釈には注意が必要だ。
■ 労働力不足と生成AIの関係は? 先の共同研究では基本的に2023年までの各種統計を基に推計を行っている。他方、生成AIとして広く知られているChatGPTは2022年11月に公表された。他社の生成AIも含め、拡大していったのは2023年に入ってからであり、その影響は必ずしも各種統計に反映されているわけではない。そのため、その情報を基に行った推計においても、生成AIの影響が適切に反映されていると考えることは難しい。 共同研究では、生成AIのもたらしうるポテンシャルを別途試算している。試算の際に問題となるのは、生成AIによって、この先、労働生産性がどの程度伸長するかに関する見通しだ。この点について、生成AIの活用が進んだ場合、労働生産性の成長率を年0.1~0.6%底上げするポテンシャルを秘めているとするレポート*1 がある。この値を用いて労働力不足へのポテンシャルを試算した結果が、図表2だ。 成長率の底上げ幅が最も小さい年率0.1%の場合には、労働生産性の向上によって1日当たり398万時間相当の省力化が見込まれる。他方、年率0.6%では1日当たり2450万時間の省力化が見込まれている。これらの中間となる年率0.35%の成長率では、1日当たり1410万時間の省力化が見込まれる。 試算結果には大きな幅があるが、生成AIの技術的な動向や、それを受けてなされる投資の動向などを考えると、うなずけるものがあるのではないだろうか。 では、具体的に生成AIの影響を受けやすい職種はなんだろうか。