「ミュージシャンの魂が未来まで残っていく」 LUNA SEAが「ライブの真空パック」アンバサダーに就任
ライブこそ音楽の醍醐味(だいごみ)、そう考える音楽ファンも多いことだろう。だが、世の中には「見たくても見られないライブ」もたくさんある。チケットが取れない、場所が遠くて行けない、バンドが解散した、アーティストが亡くなった、伝説となっている過去のライブ、などだ。もし、ライブ演奏をありのままの形で保存し、時間や場所の制約を超えて再現できたら・・・。そんな音楽ファンの夢がかなう日が、もうそこまで来ているようだ。 ヤマハ株式会社(浜松市)は、人気ロックバンドLUNA SEAと、「ライブの真空パック」をコンセプトにした取り組みにおけるアンバサダー契約を結んだことを発表、9月5日にアンバサダー就任発表会および任命式が東京・ヤマハホールで行われた。 空間体験としてのライブをアーカイブ化 冒頭、同社の山浦敦 代表執行役社長が登壇。「当社は、音・音楽を原点にこれまで培ってきた技術と感性でさまざまな変革を起こしたいと考えている。『ライブの真空パック』というコンセプト、あるいはそれを実現する技術も変革の一つ。ライブという特別な感動体験を時間や場所の制約を超えてより多くの人に届けること、また音楽を作り出すアーティストの表現の可能性を広げていくこと、より多くの人が音や音楽を通じて心ふるわせ輝くことができるよう、ヤマハは皆さまの情熱や勇気を応援し続ける企業でありたい」とあいさつした。 「ライブの真空パック」とはどういうことなのか? 続いて登壇したミュージックコネクト推進部の三田祥二 部長が概要を説明する。 「従来、ライブの迫力や会場の空気感などはその場限りでしか体験できなかったが、ライブを真空パックし、時空を超えてありのままの体験を多くの人に届けることが可能になる2つのサービスを事業開発中。それが、(アーティストが実際にプレイした)楽器演奏をリアルに再現するReal Sound Viewingと、高臨場感のライブビューイングシステムDistance Viewingだ。Real Sound Viewingは、アコースティック楽器の振動再現、電気楽器の超高精度の信号記録再現、それらを支えるオーディオデータのデジタル処理技術を組み合わせることで、アーティストの演奏をそのまま保存し再現することが可能になる」 三田部長はLUNA SEAのアンバサダー就任の理由についても言及した。 「空間体験としてのライブをアーカイブ化できるようになることは、音楽体験を文化遺産として保存するという意味においても大きな意義がある。音楽体験を数十年、数百年と残していくうえで重要なことは、アーティストが納得する形、クオリティーで残していくこと。LUNA SEAは、楽曲の素晴らしさ、知名度の高さはもちろん、そのライブパフォーマンスや音響のクオリティーに定評があり、非常に高い基準で音作りや演出が行われている。LUNA SEAメンバー、特にギターのSUGIZOさんには開発のかなり早い段階から関心を寄せていただき、トップアーティスト目線の貴重なご意見を数多くいただいた。今回、LUNA SEAの皆さんの要求を満たす技術品質を達成できたことは、われわれが技術を実現していく上で大きなマイルストーンになると考えている」 アーティスト本人がそこで演奏しているかのような臨場感 「ライブの真空パック」を実現可能にするReal Sound Viewingとはどういう技術なのか? 開発の背景を、企画・開発を担当したミュージックコネクト推進部の柘植秀幸さんが説明した。 「ライブの代替手段としては、ライブCDやDVD、ネット配信やライブビューイングなどがあるが、そこから得られる体験というのは本当のライブとかなりかけ離れてしまっている。市場が伸びているライブビューイングも、画面がマルチアングルで音に迫力がないなどの理由でライブハウスやコンサートホールの迫力が再現できていない。それらを解決するために開発されたのが、『ライブの真空パック』をコンセプトにした、Real Sound ViewingとDistance Viewingという2つのライブ再現システム」 Real Sound Viewingは楽器の生音を再現するシステム。アーティストの楽器演奏をデジタル化して正確に記録し、そのデータで楽器を制御して音を出したり、アンプから音を出したりすることで、アーティストのパフォーマンスを忠実に再現する。いわば、自動演奏ピアノを全楽器でやってしまおうという試みで、鍵盤楽器(ピアノ)、 打楽器(バスドラム、スネアドラム、タム、シンバル)、 弦楽器(コントラバス、バイオリン、ビオラ、チェロ)に応用できるという。 今回ヤマハは、エレキギター、エレキベースの演奏をリアルに再現する高精度な「リアンプシステム」と、ドラマーの迫力ある演奏から繊細な演奏までを、ドラムから音を出して再現する「ドラム再現システム」を新開発。あたかもアーティスト本人がそこで演奏しているかのような臨場感あふれるサウンドを実現させている。 また、ライブの迫力は音だけではない。照明やレーザーといった空間演出もライブの迫力を表現するうえですごく重要だ。そのためには、音響・映像・照明・VJ・レーザー・舞台演出を、「同期できる形で記録」して、「0.1秒のズレもなく再生」することが必要だが、Distance Viewingでは、「GPAP」という画期的なシステムを用いてそれを可能にしている。 「夢のかたまり」「全ミュージシャンの夢を載せた挑戦」 そして、「ライブの真空パック」のファーストケースとして、これを世の中に浸透させていく伝道師としての役目を引き受けたのがLUNA SEAだ。発表会には、メンバーのJさん(B)とSUGIZOさん(G, Violin)も、バンド結成35周年ツアーの合間を縫って駆け付けた。 昨年行われた公演「LUNA SEA Back in 鹿鳴館」を「ライブの真空パック」の技術で再現したライブを発表会の前に体験したという2人は興奮気味に語る。 「ミュージシャンのタッチや息遣いがリアルに記録されて、それが体感できるって、今までありそうでなかったこと。この技術がもっと昔に実現していたら、ジミ・ヘンドリックスやジョン・レノン、フランク・ザッパの演奏を再現できたということ。ミュージシャンとしてただただ感動」(SUGIZO) 「自分たちがやっているライブを生で見るなんてかなわないこと。でも、僕たちはいま見てきた(笑)。最初は僕の演奏と違っていたらという不安もあったが、実際に聴いてみると全く僕が弾いたままの音色になっている。その生々しさと、演奏がずっと未来に残っていくことの可能性。これは全ミュージシャンの夢を載せた挑戦じゃないか。音楽にとってとんでもないことじゃないか」(J) ライブこそが自分たちの存在証明でありステージこそが自分たちの場所だと語る二人は、「ライブの真空パック」というコンセプトのどのあたりに賛同し、アンバサダーに就任したのだろうか。 「夢のかたまりじゃないですか。僕らの演奏が100年後、500年後に残る。そこにとてもロマンを感じている。ベートーベンやバッハの時代は魂を音符にしか残せなかった。この100年で録音物に演奏として残せるようになった。それに似たような衝撃だと思います」(SUGIZO) 二人のトークは未来や次の世代にもおよぶ。 「僕たちのライブのプレイが残っていくというのは、ミュージシャンの魂が未来まで残っていくということ。僕らが存在しなくなっても魂が残っていくということのすごさ」「僕は音楽にふれることでいろいろな経験をしてきた。僕らの音楽に次の世代の子供たちがふれた時に、その子の人生にどう影響していくだろうと想像しただけでワクワクする」(J) 前出の柘植さんは、「ライブの真空パック」の将来展望についてこう語る。 「このプロジェクトの最終目標は無形文化としての音楽資産の保存。絵画・美術品・工芸品といった有形文化財の保存は、美術館や博物館などの社会的なシステムが整備されている。もちろん音楽も、CD やDVDといったメディアとしては保存できるが、空間体験として残すことができていない。技術的に困難だった、迫力あるアーティストの音と姿を、未来の世代に残したい。ポップスやロック等の現代的な音楽だけではなくて、伝統音楽、民族音楽など存続が危ぶまれる音楽文化の保存も目指していきたい」 ライブ・コンサートの体験を、音楽・文化資産として後世に残すことができる「ライブの真空パック」。日本から発信されたこのコンセプト・技術が、50年後、100年後、世界をどう変えているのか。考えただけで痛快だ。