競歩の意外なトイレ事情 専門家が語る競技の魅力、なぜ日本は「世界記録」が出せるのか?
東京五輪の陸上競技で最も金メダルに近い競技と目されている「競歩」。世界記録保持者の鈴木雄介、2019年のドーハ世界陸上20km金メダルの山西利和、10000mで世界最高記録を上回る数字を出した高橋英輝など、全員メダル候補といっても過言ではない。そんな競歩は素朴な疑問が溢れる競技でもある。「なぜゴール直前にトイレに行くの?」「競歩に向いている選手ってどんな選手?」「そもそも何がきっかけで競歩を始めるの?」。興味は尽きない。そのような疑問を元日本代表男子主将・森岡紘一朗にぶつけてみたところ、どんな質問に対しても実直に答えてくれた。 (文=守本和宏、写真=Getty Images)
鈴木雄介と交わした何気ない会話で生まれた疑問
競歩において、なぜか忘れられないシーンがある。7年前の話だ。 2013年4月。日本選手権(日本陸上競技選手権大会)50km競歩の試合後、記者会見待ちの鈴木雄介と少し話すタイミングがあった。そこで、「競歩ってキャリアが長くなると50kmのほうに移って、20kmは若手に任せる文化があるんですよね。なんとなく、後輩に道を譲る、みたいな」と彼が言った。特別な会話ではなかったが、「そんなことがあるんだなぁ」と感じたのが、印象深い。 そこで思ったのだ。 ここまで10年以上取材してきた競歩。だが、実は「五輪で金メダルを取るかもしれない競技を、ひょっとして5%も理解してないんじゃないか」と。これは大会までに、いろいろと解き明かさなければならない。例えば、ゴール目前でトイレに行っても大丈夫なのか、とか……。 そんなちょっと聞きにくいことも、2013年のモスクワ世界陸上(世界陸上競技選手権大会)でも日本代表男子主将を務めた森岡紘一朗なら答えてくれるはずだ。世界記録保持者の鈴木雄介をして、「先輩の森岡さんを追い越そうと頑張った活力が世界記録につながった」と語る存在。競歩界のパイオニア今村文男氏が“日本競歩の父”なら、日本に競歩熱を呼び起こした“競歩界の長兄”とも言える人物である。 どんな質問にも実直に答えてくれる彼なら、微妙な質問も明確に回答してくれるだろう。