急速充電規格で日中統一「日本がEVで世界を席巻する」は本当か
本当に日本メーカーが世界を席巻できるのか?
新聞などの報道では、中国と連携した統一規格によって、日本メーカーのEVが世界市場を席巻する足場が整ったといった論調も見受けられた。はたして、本当にそうなのだろうか。 答えは、残念ながら「ノー」である。 今まで、さまざまな世界のルールは欧米主導で決められることが多く、日本は繰り返し涙を飲んできた。中国や韓国からは日本の提案に反対されることが多かったことを考えると、今回、日中が統一規格開発で合意したことは評価できるだろう。 でも、そもそも今回の日中連携は中国側から提案されたもの。もともと中国規格のGB/Tは日本のチャデモ規格をもとにして開発された経緯があり、中国としては日本の技術力とノウハウを活用するのが得策と判断したと考えられる。また「日本だけでなく、ドイツにも協力を呼びかけたが、色よい返事は得られなかったようです」(チャデモ協議会関係者)というのが現実だ。 急速充電器の設置台数が日本の約1万7000基に比べ、中国は約22万基であるように、「世界シェア90%以上」の大半は中国のシェア(しかも日中二国だけの数字)であり、中国におけるEV普及の勢いは凄まじい。一方で、日本メーカーのEVへの姿勢はまだ中途半端なままである。 高級車ではアメリカのテスラやドイツメーカーが先行しつつあり、中国メーカーが安価で魅力的な電気大衆車を開発してくれば、家電業界で日本の牙城が崩落したように、中国メーカーのEVが日本でも人気になることすら想像できる。 自動車評論家で日本EVクラブ理事(副代表)の御堀直嗣氏も「日本市場では中国製自動車への偏見が根強いとしても、魅力的な中国製EVが出現すれば欧米では間違いなく売れる」と指摘する。現状を冷静に考慮するほどに、“世界征服”の足がかりをつかんだのは日本ではなく、中国だと考えるべきなのである。
そんなに高出力の急速充電が必要なのか?
同じく自動車評論家で、日本EVクラブ代表理事の舘内端氏は「10年後のための規格として評価はするが、実用として、これほど高出力の急速充電が必要かどうかは疑問」と指摘する。 現状でも、新しく市場に投入されるEVの一回の充電による航続距離は伸びている。新型の日産「リーフ」はJC08モードで400キロ。フォルクスワーゲンの「e-GOLF」も301キロの航続距離があり、日常の使用シーンで急速充電はほとんど必要がない。 実際、9月はじめに日本EVクラブなどが主催した『ジャパンEVラリー白馬2018』では、クラブスタッフが「e-GOLF」で移動したのだが、筆者が同行して長野県白馬村から東京まで(約280キロ)戻るときにも、中央自動車道の双葉サービスエリアで食事を兼ねて1回(15分程度)充電しただけで、余裕をもって走り切ることができた。 「EVには、例えば太陽光発電で作った電気を蓄えるなど、大容量蓄電池として社会に寄与する力があります。高出力の充電器を普及させるのであれば、スマートグリッド(次世代送電網)など新時代のエネルギー需給のシステムと組み合わせて、社会全体が進化していくのが望ましい」(舘内端氏) 筆者自身、EVで161回の急速充電を繰り返し、日本一周の旅をした経験がある。その実感から言えるのは、EVはエンジン車の代替移動手段というだけでなく、EVならではのライフスタイルを実現する道具として価値があるということだ。自動車メーカーには、航続距離や短時間の充電ばかりにとらわれることなく、ライフスタイルや自動車の使い方まで提案してくれる、魅力的なEVの開発を望みたい。 急速充電規格で世界標準を射止めたとしても、魅力的な日本メーカー製EVがないことには、日本経済にさほどのメリットはない。そもそも日本でEVがなかなか普及しない最大にして唯一の原因は、EVの車種(選択肢)が少ないことだと断言できる。 「日中連携で世界統一規格実現へ」という貴重でホットなニュースを契機として、そろそろ、日本メーカーの本気を期待したい。 (寄本好則/三軒茶屋ファクトリー)