『鬼滅の刃』のナゾ 押井守が考える「設定もキャラクターも新しいわけではない」のにバズった理由
これは流行の本質だと思う。わからないからこそ、みんなが興味を示し近づく。評判が立っているという現象に誘導される。そうなると、いいか悪いかはもう関係ない。大ヒットした『君の名は。』も同じ。もちろん作品の力はあった。でも、その作品の身幅を超えたからこそ大ブレイクした。 『鬼滅』はおそらく、これからも劇場版が作られるだろうけど、この1作目と同じように大ヒットするかは怪しい。『ドラゴンボール』や『ワンピース』のようにスタンダードになるかというと、それも難しいと思う。でも、なぜそう感じるのかは説明できない。それもまた「語れないこと」だから。
「役者の層が厚くて、映画雑誌も元気」
(2)肌で感じた韓国のエンタメ・パワーの秘密 韓国の映画界とはわりと縁があって、自分の原作アニメーションが2本、実写映画化(『人狼 JIN-ROH』と『BLOOD THE LAST VAMPIRE』)されている。その他にも、今年オスカーを『パラサイト 半地下の家族』で獲ったポン・ジュノの『オクジャ』(Netflixで配信中)という作品の撮影現場にも行ったことがある。このときは、ポン・ジュノに頼まれて、『オクジャ』のアニメーション版を作る予定だったから。諸般の理由で実現はしなかったけれど。 韓国映画を観るだけではなく、現場に行って映画と関わった私の経験からいうと、韓国は役者の層が厚い。主演級の男女優から、脇を固める個性派やシブ目の役者までバラエティに富んでいる。主役級になるとオーラがあるし、男優の場合は背も高く立ち姿がきれい。女優はいうまでもなく華がある。しかも、その多くがちゃんと動けて、ちゃんとアクションもできる。『人狼』のキャスティング(カン・ドンウォンとハン・ヒョジュ)には感心したし、映画のできはさておき『~VAMPIRE』のヒロインを演じた女優さん(チョン・ジヒョン)もとてもよかった。キャスティングに幅があるというのは、映画界にとって大きなアドバンテージになる。 一方、日本の場合、アイドル的な人気タレントが主演を張り、脇を固めるのはいつものおじさん役者。シリアスなドラマ系になると、主演はだいたい同じ顔触れ。いつも同じ役者ばかりで作品の区別がつかないほど。実写の場合はやはり役者ありき。その部分が充実している韓国はやはり強いと思う。