「私たちはインボイスに反対します」 弱いものに負担を強いる輪に乗りたくない
インボイスについて考えるシリーズ、今回は、いち早くインボイス反対の声をあげて活動を続ける「STOP!インボイス」(正式名称:インボイス制度を考えるフリーランスの会)の小泉さんと阿部さんに話を聞きました。フリーランスで働くお二人だからこその指摘は、インボイスの本質を突いています。 ――正直、インボイス制度が難しすぎてわかりません……。 阿部 たとえばある大工さんが、自分で椅子を作って売るとします。 まず木材を買います。1000円で買ったとしましょう。すると消費税10%なのでプラス100円、合計1100円。経費として支払います。 椅子ができました。3000円で売ろうと思います。3000円が本体価格、消費税がプラス300円、計3300円。この300円の消費税は椅子を買った人から預かったもので、そのまま国に納めていると考えられるかと思います。 だけど、大工さんはすでに木材屋さんに100円を支払っているので、このままだと消費税を400円払うことになってしまいますね。なので、大工さんは、木材屋さんに先に払った100円を、椅子を売ったときに計上した消費税300円から差し引きます。つまり、300円引く100円で200円。大工さんは消費税として税務署に200円を納めればいい。これが「仕入税額控除」です。
免税業者に過酷な制度
小泉 この「引く100円」という仕入税額控除の仕組みを変更するのがインボイス制度で、木材屋さんから「インボイス(正式名称:適格請求書)」という番号付きの特別な請求書をもらわないと、「引く100円」ができなくなってしまうのです。 今のたとえ話だと額は小さいですけれど、「仕入れの時に支払った消費税が引けない」というのは、年間に積み上げたら大変なことになってくる。「じゃあ皆、インボイスを発行すればいいだけじゃん」と思われるかもしれませんが、インボイスを出すには、課税事業者になって消費税を納めないといけないんです。今は年間売り上げ1000万円以下の事業者は「免税事業者」といって、消費税の納税が免除されていますが、インボイス制度が始まると、免税事業者との取引では仕入税額控除ができなくなってしまうので、インボイスのない小規模事業者が取引からはずされたり、あるいは消費税分の値下げを強要されかねない状況になっているんです。 ――『週刊金曜日』もライターやデザイナーなどフリーランスの方にお仕事を頼んでいて、おそらくほとんどの方が免税事業者。この方たちが適格請求書発行事業者登録せず免税事業者のままだと、会社側は年間600万円くらいの持ち出しになると試算しています。 小泉 つまり、600万円分の増税になるわけですよね。それをライターに負担してもらうのか、金曜日が負担するのか、あるいは本誌の値段を上げて読者=消費者に負担してもらうのか――の3択なんです。金曜日の場合はどうするんですか? ――金曜日の場合は、取引のある方々に取引額の交渉をお願いしました。会社は負担を回避したけど、小泉さんがおっしゃるとおり、ライターさんにとっては増税です。 小泉 痛みを負うのは、力関係の弱い方か、増税に耐えられる大企業になると思います。著名な方の場合、出版社側が折れるでしょうけど、売れっ子作家は免税事業者ではない可能性が高いですね。でもご存じのとおり、出版物というのはデザイナーや編集者など、名もなきプロフェッショナルたちが複数関わって成り立っていますから、「有名/無名」「課税/免税」にかかわらず、いろいろな方が下支えをしている。多数の小規模事業者によって支えられている産業構造は、建設業界や配送業界も同じです。 そんな中、免税事業者に対して「1000万も稼げないような事業者はいなくなっていい」「消費税を納めていないということは脱税しているんだろ、おとなしく払え」みたいな言説も……。 ――あるんですか? 小泉 めちゃくちゃあります。ただ「免税事業者は脱税している」という話は消費税法的に間違った指摘だし、1000万円を超えて稼ぐフリーランスは1割というデータもあり、個人事業主のほとんどが免税事業者です。フリーランスには病気や子育て・介護などでこの働き方を選ばざるを得ない人も多い中で、皆に強さを押しつけるのはおかしいと思います。