被疑者は「海外逃亡」すれば“捜査が及ばない”は本当? もし「一生帰国しない」選択をしたら…【弁護士解説】
近年、海外に滞在している被疑者をめぐる動きが注目を集めている。かつては「一度海外に逃亡してしまえば日本の捜査機関は手出しできない」という印象も強かったが、2024年にはこうしたイメージを覆すような逮捕劇が相次いだ。
ガーシーら“大物”が相次いで帰国後に逮捕
3月には暴露系YouTuberであったガーシー(東谷義和)氏が、海外滞在中に国際手配を受け、その後帰国し逮捕された。また11月にはインターネット動画投稿サイト『FC2』創業者の高橋理洋氏が、韓国から帰国したタイミングで逮捕されている。 ガーシー氏は海外の滞在先で「一生帰国しない」と明言し、高橋氏は逮捕時、「当時アメリカ人で、米国の会社でしたことなので日本の法律には違反しないと思っている」と主張したとされる。 両者の被疑事実は異なるものの、海外滞在中は日本の捜査機関が直接的に逮捕できなかった点で共通している。実際、海外逃亡は、日本の捜査網から物理的・法的距離を生み出し、日本側が直ちに強制的措置を取ることを困難にする。
日本国内にいる場合となにが違うのか
では、刑事事件で被疑者が海外にいる場合、日本国内にいる場合とはなにが異なるのか。海外逃亡に対して、日本の捜査機関にはどのような法的手段があるのか。刑事事件に詳しい荒木謙人弁護士に聞いた。 ーー前提として、海外にいる被疑者を強制的に日本に連れ戻すことはできるのでしょうか? 荒木弁護士: 日本の捜査権が及ぶ範囲は、日本国内のみです。そのため、被疑者が海外に逃亡した場合、日本当局は原則として直接的な身柄拘束をすることは不可能です。
例外的に連れ戻せる2つのケース
ーー例外的に連れ戻して逮捕できるケースがあれば教えてください。 荒木弁護士: 一つ目は、犯罪人引渡条約に基づいて、特定の国に逃亡した被疑者を当該国に逮捕・拘束してもらい、日本に引き渡してもらうという手段があります。 しかし、2024年時点で、日本はアメリカ合衆国と韓国の2か国としかこの条約を締結していないため、これらの国に逃亡した場合のみという、限定的な場面しか考えられません。 二つ目は、ICPO(国際刑事警察機構:インターポール)を通じた国際手配という手段です。 日本当局はICPO加盟国に対し、被疑者の所在に関する情報収集(「青手配」)から身体拘束・逮捕を要請する「赤手配」へと切り替えるなど、国際的な捜査協力を求めることができます。 ーーこのような国際手配をすれば、被疑者はどこにいても逮捕可能なのでしょうか? 荒木弁護士: どこの国でも逮捕可能なわけではありません。 2024年3月末時点でICPOには196の国・地域が加盟しているため、広範な国際的捜査網が整っているものの、最終的な逮捕・引渡しは各国の協力姿勢に左右されます。 たとえば、ガーシー氏が逮捕直前に滞在していたUAE(アラブ首長国連邦)は比較的協力的であったとみられるため、ICPOを通じた国際手配によって、被疑者の身体拘束・逮捕の手続きを求めることが考えられます。