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殴られない『殴られ屋』朝倉未来とのスパーを語る

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ゴング格闘技

「攻撃していいのは顔面のみ」「お互いに16オンスのグローブを着用」「制限時間30秒」──相手のパンチを避けたりガードするだけで自らは攻撃しない『殴られ屋』KENJIと、朝倉未来(トライフォース赤坂)がこの条件でスパーリングに臨んだ動画が6月7日、両者のYouTubeチャンネルにアップされた。 【写真】路上で大男と自分は殴らず戦うKENJI  攻撃の制限や時間制限があるなか、MMAとは異なる距離での朝倉未来の動きを見ることが出来るこの貴重な動画は、アップから2日で2人合わせて計300万回に届く視聴数となっている。  現在、発売中の本誌『ゴング格闘技』では、「どこまで戦えるのか!? 朝倉未来と世界のフェザー級王者たち」をテーマに、格闘技界の重鎮、吉鷹弘・鈴木秀明・大沢ケンジの3氏による徹底解説を掲載しているが、その番外篇として、今回のスパーリングを通して、朝倉未来の強さを元キックボクサーで、今回『殴られ屋』として、未来と対峙したKENJIに聞いた。  KENJIこと福屋賢治は25歳。滋賀県大津市でキックボクシングを始め、2017年11月に韓国・ソウルで開催された『Angel's Fighting 05』では、地元のイ・デウォンと67kg契約で対戦し、2R KO負けの戦績を残している。通常57.5kgのフェザー級で戦っていた福屋にとって、4階級上での戦いだった。  対戦相手のイ・デウォンは、現地の格闘技リアリティショーを勝ち上がったアイドル的存在。非公式戦で4連勝を飾り、満を持して本戦に送り出されてきた。もともと小柄でカウンタータイプの福屋にとって、183cmと長身で懐の深いデウォンは、相性が良くなく、主催者にとっては売り出したいアイドルをアップするのにうってつけのマッチメークだった。  試合は、リーチある相手に圧力をかけていく作戦だった福屋が、テコンドー出身のデウォンに距離を取られ、2R、対角線攻撃から、いったん沈み込んでの右ハイキックの前にマットに沈んだ。 「HIROYA選手のように前に出て距離を潰して行く作戦だったのに、様子見していて負けてしまいました。しょうもない試合でした」と福屋は振り返る。  未来との動画では、キックボクシングを辞めた理由をシンプルに「減量とトレーニングがしんどいので辞めました」と語っていたが、その“しんどい”には当時、並行して仕事としていた俳優業の規約があり、「急に痩せたり太ったり、顔に傷がつくことが事務所からNGと言われて」キックから離れたのだという。  それがなぜ『殴られ屋』に?  KENJIが『殴られ屋』の真似事のようなものを始めたのは、なんと中学生の頃だったという。 「最初は中学生の頃にいじめられっ子だったことの反発から、いじめっ子を見返そうと、中1で地元でキックボクシングをはじめ、その練習のために、中3くらいから『殴られ屋』を始めました。その頃は、まだ中学生ですし、稼ぐという感じではかったのですが、町の人たちに“格闘技をやったらこんな風にパンチもかわせるんだよ”というジムの宣伝もかねてやっていました」  出稽古でボクサーとも練習を積み、見様見真似でいまのカウンタースタイルを作った。 「パンチを避けるのが得意なので、YouTubeの視聴者から“朝倉未来選手とやったらどうなるんだろう”という声が多く届き、僕から朝倉選手に動画とリクエストを送らせてもらいました。そうしたら受けていただいて」と、今回のスパーリングの経緯を語る。  DEEPで試合経験もある佐々木大ら2名との30秒限定スパーの後、朝倉未来と拳を合わせた。  サウスポー構えから、いきなりノーモーションの左の突きを放つ未来。ぎりぎりの間合いでスウェイとダッキング、バックステップを駆使してかわし、サウスポーの死角である外側の左へと足を運ぶKENJIだが、鋭い踏み込みと詰めのなかで未来は歩くように、そのままオーソドックス構えにスイッチ。左フックとアッパーの中間の軌道でKENJIの上体を上げさせると、右ストレートを顔面に当てて行った。  30秒のブザーにKENJIは思わず「つえー」と笑顔。未来も「大丈夫ですか」と気遣いながら「上手いですね、やっぱ」と動きを評価する。「朝倉選手のこの手(リーチ)だったら、だいたいここらあたりで避けられるというのがあるんですけど、(ストレートの)飛び込みが見えなかったです」と印象を語るKENJIに、「みんなに独特と言われます。伸びるって」と、答える未来。 「これから二代目『殴られ屋』襲名してもらって」というKENJIに、未来も「僕、殴る方が好きなんで」と笑顔で返し、濃密な30秒が幕を閉じた。動画アップから1日経った8日、KENJIにあらためて、未来とのスパーリングについて振り返ってもらった。 「今まで千人以上と向き合ってきたんですけど、それこそ総合格闘家とかキックボクサー、それにボクシングの東洋太平洋ランカーの方とかと『殴られ屋』で対峙したことがあるんですが、未来選手はどの選手とも違って、一番“当て勘”が良かったです」  開口一番、MMA13勝1敗、RIZINで7連勝中の未来の動きを「どの選手とも違う」「一番“当て勘”がいい」と語ったKENJI。 「様々なプロの方とやらせてもらって、今まででもらったのは最高で4発。でも動画を見返したら、未来選手からは30秒で8発ももらっていました。こんなことは初めてです」と驚きを隠さない。 「なかでもパンチの技術が特殊で、踏み込みが速くてパンチを出すときに“普通だったらこの距離なら当たらないな”という数センチの距離で避けてるんですけど、それをさらに後ろ足を浮かせて、もうちょっと前に拳を持ってきているような感じなんです。見た目以上にリーチも長く、ノーモーションのストレートを身体を倒しながら打ってきて“ここまで伸びてくるんや”と驚きました」  これまでの対戦相手が語る通り、長いリーチと踏み込みの速さに加え、左右ともにストレートが強いのが未来の強みだ。 「MMAなので“芯”がしっかりしていてブレない上に、サウスポーもオーソドックもどっちも使える。こっちは相手の得意な距離を殺しているつもりなのに、未来選手はスイッチして、いつの間にか自分の距離にしているんです」  巧みな圧のかけ方と、未来独自の動き。そこに路上で“千戦”練磨のKENJIは戸惑いを感じたという。 「意外な角度からもパンチが入って来ます。フックともアッパーとも違う、ちょうど中間のような打ち方で、ガードしているはずなのに、その間からパンチが抜けてきたりしました。それに、体重を巧みに乗せていて、そこで押された後にパンチが飛んできたり、いろいろ独特の動きが組み込まれていました。ボクシングのセオリーとは異なるテンポとか、あの当て勘はやっぱり、路上で磨かれたのかなと想像しました」  今回のスパーリングは「顔面のパンチのみ」の限定スパーリングだ。それゆえに、KENJIは“殴られない”技術を駆使し、未来もまたMMA(総合格闘技)とは異なる距離・スタイルを垣間見せた。 「距離が近くなってのフック系のパンチはボクシンググローブでブロッキングで防いだりもしたのですが、もしオープンフィンガーグローブだったら隙間に入ってしまうなとも思いました。蹴りが無いからダッキングで頭を下げられるし、タックルが無いから中に入って行ける。でも、あれで総合ルールで蹴りやタックルを織り交ぜられたら……」(KENJI) 「総合ではタックルとかもあるので距離で外します。相手との距離感を一緒に保ち、自分はパーンと入れるように」(未来)  スパーリング後、未来は「ボクシングをやるんだったらこういう技術も手に入れないとやられちゃうと思うので。いずれ挑戦もしたいんで、ボクシングもキックボクシングも」と語り、KENJIからボクシングデフェンスを習い、その後、WBA世界ライトフライ級スーパー王者・京口紘人とのマススパーリングも披露している。 「あの30秒は濃かったです」とあらためて、未来とのスパーリングを振り返ったKNEJI。今回は、マット上での限定スパーリングだったが、実際には路上で一晩30人ほどの相手を務めている。  事前にSNSで告知して参加者を募るが、これまで120kg超の重量級とも対峙してきた。『殴られ屋』だが、殴られてダメージをためないことが重要だ。 『殴られ屋』としては、20年前に会社経営が破綻して、1億5千万円の借金を返すために新宿・歌舞伎町の路上を戦場としていた晴留屋明さんが有名だ。晴留屋さんは、殴られ続けるうちに、的を小さくするために独自に半身の構えを編み出し、パンチをパーリングする技術を高めた。そしてときにパンチに向かって行って中に入って頭で受け止めて流すことで、“お客さん”に手応えを感じさせ、ギャラリーを沸かせた。  それでも後年は、パンチドランカーの症状に悩まされることになる。晴留屋さんの生き方とその後について、もちろんKNEJIも影響を受け、思うところもあるという。 「もともと『殴られ屋』を始めたきっかけが格闘技のすごさを広めたいという思いと、プロのファイターとして続けられなかったので、パフォーマーとして、人を楽しませることが目的でした。そのなかで30歳までを区切りに、怪我しないように30秒ルールと、16オンスのグローブという設定にしました。これだったら、ダウンもしないと分かっているので。まだ一回も怪我もダウンもしたことないんです」  殴られない『殴られ屋』というジレンマのなか、KNEJIもギリギリのところで相手と向き合う。 「僕が避けすぎて相手にストレスが溜まらないように、距離を空けすぎず、当たるか当たらないか、というところで避けると、周囲も喜んでくれるでしょうし、パンチ力が弱い相手のときはガードの上から受けてあげたり、ミットを持つこともあります」  それでも、路上での試し合いには競技とは異なる危険が伴う。その努力と技術を、再びプロのリングで活かしたいとは思わないか──そう問うと、KNEJIはプロのファイターとして結果を残している格闘家に対して大きな敬意を示した。 「今回、朝倉未来選手と会ってみて、格闘技が、戦うことがほんとうに好きなんだなと感じました。僕は、相手と向き合って戦うのは好きなんですけど……やっぱり闘争心が決定的に欠けている。楽しませる方が好きなんです。プロっていうのは、それで勝ち上がって食べていくのが本分なので、僕はいまの形で、表現していきたいと思っています」  KENJIと対戦したデウォンはその後も3連勝と負け無し。KENJIはコロナが明けたら、再び日本中を、そして世界を『殴られ屋』として歩いていきたいという。そして、ファイターたちとのコラボで、格闘技のすごさを伝えられたら、とも語る。  未来は「天心君とコラボしてもらって。天心君のは全部避けてくださいね。俺の株が上がるように(笑)」とエールを送り、那須川天心からは公開でリプが届いたという。そして、憧れの堀口恭司とも対峙してみたいと望む。  かつて地下の格闘技しか知らなかった少年は『殴られ屋』として路上で格闘技を学び、生きる術を掴んだ。『THE OUTSIDER』出身の未来は、そんなKENJIにシンパシーを感じ、今回のコラボを受けることにしたのかもしれない。  最後に、KENJIは“未来”についてこう語った。 「『殴られ屋』をしていますが、世界が平和になるようにと願っています。いまはコロナで止まっていますが、この『殴られ屋』をすることで、無一文でヒッチハイクして、日本、そして世界を回って、世界中のいろんな人たちと出会って、様々な価値観を知って伝えていきたいんです。対峙して拳を交えたら、どんな人でも笑顔になります。それは格闘技も同じですよね。終わったら、飲みに行こうと誘われることも多いので、またそうして笑い合えるようにこれからも続けていきます」

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