地球で「生命が誕生した」3つのシナリオ…じつは、そのどれもが「海と切っても切り離せなかった」
陸上の温泉地帯は生命にとって都合がいい
生命の誕生には水がないといけませんが、ありすぎても困るため、適度に乾燥したり水が供給されたりする陸上の温泉地帯や干潟のような場所が最適だという考えです。 温泉地帯や干潟の水たまりでは、蒸発乾燥することで有機物の脱水縮合が進むとともに、有機物が濃集した原始のスープのなかから生命が誕生したという考えです(図「陸上温泉地帯での乾燥と加水の繰り返し」)。温泉に行くと、浴槽がヌメヌメしていたり、析出物が付着していたりします。それらは、微生物の集まりやその分泌物からできているように、温泉の水に溶けている成分を食べる好熱性の微生物がわんさか集まっています。 海水の組成はナトリウムがカリウムよりも多いのに対し、生物ではナトリウムとカリウムが同程度、もしくはカリウムのほうが多い場合があります。温泉地帯の蒸気にはカリウムが多く含まれることもあります。そのような蒸気が冷却され水が溜まったところは、化学組成的にも生命の組成に近くなると考えられています。 また、大陸の岩石には生命の必須元素であるリンが多く含まれます。岩石の化学風化によってリンが溶け出し、陸地の水たまりに多く供給されることも、陸上温泉説が深海熱水説より有利な点として挙げられます。 といっても、陸上温泉説の問題もないわけではありません。約45億年前に海ができてから40億年前に陸ができはじめるまでに約5億年もあります。そのあいだに生命進化が何も起きなかったとは考えにくいです。また、大陸ができはじめた頃は、陸地はほんの少ししかなかったため、生命誕生の場は限定的で、その後の爆発的な発展に貢献できたかは微妙なところです。 深海熱水説の問題であった有機物の脱水縮合は、二酸化炭素が超臨界状態になると解決できるとのモデルもあります。 また、海底の地層の中にはすき間がたくさんあって、そのようなところで地層が圧密を受けて有機物が合体する可能性も指摘されています。実際、掘削船によって海底を掘ってみると、地層の中には様々な有機物や微生物がたくさんみつかります。 生命の誕生がどちらの場なのか、それともそのどちらもなのか、現在も議論が続いています。 ◇ ◇ ◇ 次回は、生命活動の基本的な生理的働き「呼吸」と地球環境の関わりを、水の視点から考えます。 水の惑星「地球」 46億年の大循環から地球をみる
片山 郁夫(広島大学大学院 先進理工系科学教授)
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