電力小売り完全自由化まであと1年、業界横断的に動き出す電力ビジネス
2016年春の電力小売りの完全自由化を約1年後に控えて、産業界では動きが活発になっています。日本の電力販売をめぐる歴史的な転換点となるため、様々な業界が新たなビジネスチャンスととらえているからです。
電力自由化とは1995年から順次進められてきた電気事業の制度改革のことです。日本の電力事業は、戦後長期にわたって全国に10社ある地域電力会社によってほぼ独占的に行われてきました。それが規制緩和によって段階的に自由化が進み、電力会社以外の新規参入企業でも電気を売れるようになってきました。まず大規模工場やデパートなど大口顧客向けの「特別高圧」に分類される部分が自由化され、その後、中規模工場やスーパーなどの「高圧」に分類される契約についても自由化されました。 残った家庭向けやコンビニエンスストアなどの小規模商店向けの「低圧」部分も、2016年春から自由化され、電力小売りが全面的に自由化されることになります。これまで家庭に電気を供給していた大手電力会社以外の企業も家庭向けに電力を販売できるようになり、消費者側も会社を自由に選べるようになるのです。
今回新たに自由化される部分は、電力市場全体の約4割にあたり、市場規模は約7.5兆円と推計されています。これはスマートフォンの普及が生み出す全体の市場規模に匹敵する規模です。契約数にすると、一般家庭が約7678万件、商店や事業主など約742万件分にあたります。新たに生まれる巨大市場に対し、電力事業に親和性がある企業のほか、これまで電力事業に縁の薄かった企業でもビジネスチャンスを求めて新規参入してくることが予想されます。 具体的には製鉄所など既に発電所を持っている企業や、石油元売り会社などエネルギー関連企業のほか、携帯電話事業者などです。携帯電話会社は、既に多くの個人顧客(契約者)を持っており、料金の請求や回収などに豊富なノウハウがあります。こうした面で電気事業にも参入しやすく、通話料金とセットで割引きするなど、自らのビジネスの特徴を生かした料金プランを作りやすいのも特徴です。 一方、大手電力会社の側も、新規参入組を迎え撃つための手だてを講じています。東京電力は2014年秋から電力子会社を通じて、自らの供給エリア外である中部電力や関西電力の管内で電力販売を始めているほか、東電は2月9日、中部電力と火力発電事業で包括的な提携を行い、燃料調達や海外事業を共同で行う方針を発表しました。他の電力大手も都市ガス大手など連携して電力販売の拡大を検討している模様で、約1年後に迫った完全自由化をにらんで、電力・エネルギー事業をめぐる業界横断的な合従連衡の動きが活発になっています。 (3Nアソシエイツ)