J1で再導入のVAR、JFAが求める理解とは? 「最小の干渉で、最大の利益を」
今季のJ1では使用を中断したVARが再導入される予定
16日に「2021判定基準(スタンダード)説明会」が行われ、JFA審判委員長である黛俊行氏、審判副委員長・Jリーグ審判デベロプメントシニアマネジャーを務める扇谷健司氏らが出席。プロフェッショナルレフェリー(PR)の面々も数名交えて、今年のレフェリングについて説明があった。 扇谷氏によると、今年もJリーグでは昨年と同様に「激しくて、フェアで、エキサイティングなプレー」を求めていくという。主審には、“乱暴な行為やプレー”に対してしっかりと対応しつつ、“簡単に笛は吹かない”で見極めた判定が求められる。そのうえでJ1では、昨季新型コロナウイルスの影響もあり、使用を中断したビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が再導入される予定となっている。 扇谷氏がまず言及したのは、ルール改正後、Jリーグでよく見られるようになった「ハンドの反則」についてだ。ハンドの反則は、 “腕の付け根より下”と範囲が明確化されたことで、“場所”の基準は分かりやすくなった。ただ、「どのように当たったのか」という条件の部分で、どうしても解釈が分かれてしまうところがあり、昨シーズン中は何度も議論の的になっている。審判にとって、見極めるべき点が増え、判定がより難しくなった反則の1つだ。 PR主審の松尾一氏は、ハンドの反則は見る角度によって様々な見解が出てくることを指摘。主審として、「これから起こる事象を予測しながら、“ポジショニング”や“どこに目を向けるか”(に注意して)判定するように心掛けています」と意気込みを語っている。一方で扇谷氏は、「VARの導入がレフェリーにとって手助けになる部分もあると思う」と、VARに期待する部分でもあることを明らかにしていた。
VARが遡ることができるのは、“攻撃のスピードが上がった地点”まで
一方でVARに関して、“どこまで(プレーを)遡るのか”が大きな話題となっていた。昨年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝で、ヴィッセル神戸の得点がVAR介入の末に取り消されたのは記憶に新しい。これについて扇谷氏は、「“最終的な攻撃がどこからスタートしたか”が重要となってくる」と言及。具体的には、“攻撃のスピードが上がった地点”が基準になるという。得点の際にはこの地点までの確認作業を、主審とVAR側が交信をして必ず確認しており、今後J1での適用時も同じ手順を踏むことになるはずだ。 さらに扇谷氏は、VARでオフサイドを判定する際にフィールド上に引くラインについて注意を促した。J1で採用されるのは「2Dライン」というもので、限られたカメラでのみ確認でき、フィールド上にしか直線を引くことができない。つまり、状況によっては正確に確認できないということだ。あくまで「“審判”のジャッジをサポートするものになる」ということを、扇谷氏は認識しておいてほしいと話している。 国際審判として海外でも活躍しているPR主審の佐藤隆治氏は、「レフェリー側としてできることはきちっとプロトコルを守って、VARのフィロソフィー(最小の干渉で、最大の利益)を大事にしつつ、一つひとつ丁寧にやっていく」と決意を新たにしている。そのうえで、「VARは効果があるツール。一方で、副反応も存在する。サッカーに関わる方が、少しでもVARを正しく理解していただくことでその副反応を減らせると思う」と、万能ではないVARへの理解も求めていた。 このように期待も不安もあるVARシステム。コロナ禍が続くなかで各審判員はトレーニングを積み、開幕へ準備を続けているという。負担が大きくなるレフェリーにとっては、今シーズンも試行錯誤の年になる。選手、メディア、サポーターは知識をアップデートしつつ、VAR導入で変化するレフェリングをともに見守っていく必要がありそうだ。
Football ZONE web編集部・金子拳也 / Kenya Kaneko