多くの人がまだまだ知らない「体験の格差」が起きてしまうワケ
習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか? 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】子ども時代に「ディズニーランド」に行ったかどうか「意外すぎる格差」 発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。
意外と知らない「体験格差」の実態
夏休みなど長期休暇の時期によく耳にするようになった「体験格差」。その実態をどれだけの人が把握しているのだろうか。 〈「体験ゼロ」の子どもたちの割合を、家庭の世帯年収別にも見てみよう。すると、世帯年収が低い家庭ほど、「体験ゼロ」の割合が高くなっていることがわかる。世帯年収が600万円以上の家庭だと「体験ゼロ」が11.3%であるのに対し、300万円未満の家庭では29.9%となった。つまり、2.6倍以上もの格差だ。 こうした経済的な格差は、各家庭が支払っている「体験」の平均的な年間支出額にも表れている。世帯年収600万円以上の家庭のおよそ12万円に対して、300万円未満の家庭では5.5万円弱。具体的な金額の面でも、およそ2.2倍の格差が生じている。〉(『体験格差』より) 私たちが生きるこの社会で、低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」という結果が出ている。 これを多いと思うだろうか、少ないと思うだろうか。 では、なぜ子どもに体験を提供できないのだろうか。理由の一つは多くの人がイメージするとおり……。 〈調査では、過去1年間に子どもに何らかの「体験」をさせてあげられなかった経験があると答えた保護者に対して、そうせざるを得なかった理由についても聞いている(複数回答)。 グラフ7は、その回答を世帯年収300万円未満の家庭に絞って集計したものだが、そのうち最も多いのは「経済的理由」で56.3%だった。〉(『体験格差』より) 低所得家庭の子どもたちの「体験」にとって、「お金」が最大の壁であることは間違いがないが、別の壁もある。 〈保護者の回答で次に多かったのが、送迎や付き添いなどの「時間的理由」だ。こちらも51.5%と半数を超えている。そして、そのあとに「近くにない」(26.6%)、「保護者の精神的・体力的理由」(20.7%)、「情報がない」(14.3%)、「理由はない」(6.8%)といった回答が続く。 「時間的理由」が「経済的理由」に匹敵する割合となっていることは重要だ。共働きの家庭はもちろんのこと、ひとり親家庭で習い事への送り迎えや付き添いなどがより困難であることは想像に難くない。〉(『体験格差』より) 送迎など「時間」というのも大きな壁となっている現実がある。 さらに話題書『体験格差』では、「人気の水泳と音楽で生じる格差」「近所のお祭りにすら格差があること」なども調査データをもとに分析している。 「体験」はしていてもしなくても誰もが語ることのできるテーマである。だからこそその「格差」と聞いたときに、データや実情をふまえて議論されることを期待したい。 つづく「「息子が突然正座になって泣きながら…」多くの人が知らない「体験格差」の厳しい実態」では、「低所得家庭の子どもの約3人に1人が体験ゼロ」の日本ではいまだ体験が「必需品」だとみなされていない現実を掘り下げる。
現代新書編集部